【ロングセラーを読む】何度読んでも発見がある 俵万智著「サラダ記念日」 - 産経ニュース

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何度読んでも発見がある 俵万智著「サラダ記念日」

自宅の書棚にパラフィン紙に包まれた函(はこ)入りの『サラダ記念日』がある。奥付に「二〇〇万部突破記念 非売品」、表紙をめくると筆で「一九八八年三月二十四日 俵万智」と書かれている。

昭和62(1987)年5月刊行だから10カ月たたず200万部が売れた本書は61年に角川短歌賞を受賞した連作「八月の朝」など約430首を収録した俵さんの第1歌集。ご存じ、〈「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日〉から流行語や映画「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日」にもなった。

俵さんは当時24歳。〈万智ちゃんを先生と呼ぶ子らがいて神奈川県立橋本高校〉とも詠んだ高校教師。多くのメディアが取り上げ、私もブームを取材した縁で冒頭の一冊をいただいたと記憶する。

改めてページをめくれば、巻頭の一首〈この曲と決めて海岸沿いの道とばす君なり「ホテルカリフォルニア」〉から、〈会うまでの時間たっぷり浴びたくて各駅停車で新宿に行く〉、これもよく知られた〈「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの〉…。久しぶりに甘酸っぱい気分に浸る。あるいは、〈コップ酒浜の屋台のおばちゃんの人生訓が胃に沁みてくる〉に、うんうんと、うなずいたりも。

刊行から来年で35年。河出書房新社によると、単行本は397刷で250万部、平成元年10月刊の文庫が58刷30万部など。近年でも28年刊の新装版が4刷1万部、文庫は年に2回重版、この10年で4万部など根強い人気だ。担当編集者の高木れい子さんは「そこに詠まれている、日々を生きる人の心や思いはどんな時代でも変わらない。何度読んでも発見があり、日々の営みが愛(いと)おしく、驚きに満ちて豊かなものと気づかせてくれる。(コロナ禍で)日常に向き合うことになった今こそ、ますます読み継がれていくのでは」と話す。

あとがきで「生きることがうたうことだから。うたうことが生きることだから」と記していた俵さん。今年、第6歌集『未来のサイズ』で歌壇最高峰とされる迢空賞を受賞するという果実を得た。

俵さんと、少しだけわが身の来し方にも思いをはせながら、本書を味わいたい。