ノーベル平和賞、権力と戦う報道が民主主義に不可欠と訴え

ノーベル平和賞を授与され、同僚から祝福されるドミトリー・ムラトフ氏=8日、モスクワ(AP)
ノーベル平和賞を授与され、同僚から祝福されるドミトリー・ムラトフ氏=8日、モスクワ(AP)

【ロンドン=板東和正】ノルウェーのノーベル賞委員会は今年の平和賞を、強権的な政権に立ち向かうフィリピンとロシアのジャーナリスト2氏に授与した。世界各地で表現の自由が脅かされる中、同委員会は民主主義や平和な社会にとり、権力と闘う報道が必要不可欠であることを訴えたとみられる。

ノーベル賞委員会は8日、2021年の平和賞を、フィリピンの女性ジャーナリスト、マリア・レッサ氏と、プーチン政権への批判で知られるロシアのリベラル派新聞「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラトフ編集長に授与すると発表した。

ロイター通信によると、ジャーナリストへの平和賞授与は1935年に受賞したドイツの反戦ジャーナリスト、カール・フォン・オシエツキー氏(1889~1938年)以来という。同氏は、第一次大戦の講和条約ベルサイユ条約に違反したドイツの再軍備を暴き、ナチス政権発足後に強制収容所に送られた。

80年以上がたち、ジャーナリストが再び受賞したのは、近年、世界各地で言論の弾圧が広がっているとの危機感があるためだ。

地中海の島国マルタでは2017年に、タックスヘイブン(租税回避地)の実態を暴いた「パナマ文書」報道に参加した女性記者、ダフネ・カルアナガリチア氏が車に仕掛けられた爆弾で死亡。18年には、サウジアラビアの反体制記者、ジャマル・カショギ氏が在トルコのサウジ総領事館で殺害された。

今年6月には、香港国家安全維持法(国安法)が施行された香港で、中国への批判的論調で知られる香港紙、蘋果委員会(ひんか)日報(アップルデイリー)が休刊に追い込まれた。

グテレス国連事務総長は今月8日、2氏の受賞を受けた声明で、記者への暴力やテクノロジーの進化による偽情報の流布が横行する事態を問題視し「不正行為を調査し、市民に情報を届け、指導者に責任を負わせることができるジャーナリストがいなければ、自由で公正な社会は実現しない」と強調した。

ノーベル賞委員会のレイスアンデルセン委員長も同日、「自由で独立した事実に基づくジャーナリズムは、権力の乱用や噓、戦争のプロパガンダから守る役割を果たす」と指摘し、権力と闘う報道が民主主義や平和な社会を維持するとの認識を示した。