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いにしえの交流地 変革のとき 生口島(広島県尾道市)

生口島の耕三寺から望む瀬戸田の風景。対岸は高根島
生口島の耕三寺から望む瀬戸田の風景。対岸は高根島

芸予(げいよ)諸島の一つである広島県尾道市の生口(いくち)島には、平成初期に開通したしまなみ海道によって多くのサイクリストが訪れる。温暖な気候で、国産レモン発祥の地としても知られる。島を巡ると、鈴なりに実ったレモンやミカンが視界に明るく飛び込んでくる。

島は、潮待ちの港町である瀬戸田(せとだ)を中心に栄えてきた。かつて製塩業と海運業が盛んで多くの船が出入りし、人や文物の交流地として先進的に発展した。昭和30年代は多くの人が訪れる観光地であり、瀬戸田港から続く「しおまち商店街」は、浄土真宗本願寺派の耕三寺(こうさんじ)へ続く参道としてにぎわっていたそうだ。

瀬戸田には日本画家、平山郁夫の美術館がある。昭和5年、瀬戸田で生まれた平山郁夫は、少年時代に見た島の景色が画業に大きな影響を与えている。作品によく使われる群青色は、幼少の頃に潜った瀬戸内海の色だという。

島外の世界にも強い憧れを抱き、後にシルクロードなど何度も海外へ赴き筆をとった。また広島で被爆した経験もあり、文化遺産の保護と救済に努めて平和を希求した。同美術館の根葉正文(ねばまさふみ)さんは「島内には平山郁夫のスケッチポイントがある。画家の向けたまなざしに重ねて島を見てほしい」と語る。

今後変わりゆくであろう瀬戸田の「しおまち商店街」
今後変わりゆくであろう瀬戸田の「しおまち商店街」

しおまち商店街はピーク時より大幅に店数が減ったが、島外から新しい風が吹き込み変革のときを迎えている。今春、江戸期の豪商、堀内家の旧邸を活用した高級日本旅館「Azumi Setoda」が誕生。それを機に、商店街の人たちを中心に「しおまち商店街の輪」が結成され、活性化に取り組んでいる。4月には複合施設の「SOIL SETODA」も開業した。

「しおまち商店街の輪」の山口広三(こうぞう)会長は「〝変わらない良さ〟を残しながら進化していきたい。次世代に託せる土台作りが自分たちの使命」と話す。

瀬戸田には室内楽専用ホール「ベル・カントホール」や生口島と高根(こうね)島の17カ所に点在する現代アート「島ごと美術館」もある。寺院も多く、室町時代に建立された向上寺の三重塔は国宝だ。

こうした地域資源を生かし、新しい変化や人との出会いを受け入れる。実に、風通しの良い島だと感じる。それは、島の先人が脈々とつなげてきた変わらない姿勢なのだろう。いにしえの港町、瀬戸田から見える世界は果てしなく広い。

アクセス 広島県の尾道港や三原港、須波港から船が運航。しまなみ海道を通って自転車や車でも。

プロフィル 小林希 こばやし・のぞみ 昭和57年生まれ、東京都出身。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後に『恋する旅女、世界をゆく―29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎文庫)で作家に転身。主に旅、島、猫をテーマにしている。これまで世界60カ国、日本の離島は100島を巡った。