「金が基準」トップの威借り大学私物化 逮捕の日大理事

日大の田中英寿理事長宅へ家宅捜索に入る東京地検特捜部の係官=7日午後2時29分、東京都杉並区
日大の田中英寿理事長宅へ家宅捜索に入る東京地検特捜部の係官=7日午後2時29分、東京都杉並区

日本大学の付属病院建て替え工事をめぐり、背任容疑で東京地検特捜部に逮捕された日大理事の井ノ口忠男容疑者(64)は、「トップ」の威光を背景に不正に染めていったとみられる。同容疑で逮捕された関西最大級の医療法人「錦秀会」グループの理事長を務めていた籔本雅巳容疑者(61)とともに、日本最大級の大学の予算を私物化していた疑いもあり、特捜部は全容の解明を進めている。(荒船清太、吉原実、石原颯)

今月1日、東京都千代田区の日大本部で開かれた理事会に、井ノ口容疑者の姿はなかった。9月上旬に自宅の家宅捜索を受けて以降、表舞台からは姿を消した。

日大OBで、名門で知られるアメリカンフットボール部で主将を務めた経歴を持つ井ノ口容疑者。「今も体格がよく、真っ黒に日焼けしている。スーツにはだしで靴を履く、学府のイメージとは程遠い男」(大学関係者)がマンモス大学を牛耳るようになった背景には、大学トップに君臨する田中英寿理事長(74)の存在があった。

卒業後、大阪市を拠点とするスポーツ関連会社を経営していた井ノ口容疑者が母校と接点を持つようになったのは十数年前。息子が日大アメフト部に入部しコーチを務めるようになったのがきっかけだった。田中理事長の妻が東京都内で経営するちゃんこ料理店に、アメフト部の部員らを連れて日参。理事長に接近し、ちゃんこ料理店の近くにマンションまで購入した。

「アメフト部に面白いやつがいるんだよ」。ある日大関係者は、田中理事長が井ノ口容疑者について目を細めて話したのを覚えている。「話は面白くて気さくだが、部下や取引先には、こわもてであたる二面性のある人間。あっという間に(田中理事長に)食い込んでいった」。関係者はこう振り返る。

今回の事件の舞台となった関連会社「日本大学事業部」が立ち上がる平成22年ごろ、井ノ口容疑者は理事長の「特別補佐」の肩書で、日大事業部の自動販売機事業などを手掛け始めた。異例の登用に学内では反対意見もあったが、田中理事長は「俺が決めた」と一蹴。29年には日大の理事に就任し、大学中枢にも食い込んでいった。

30年7月には日大アメフト部が起こした悪質タックル問題をめぐり、隠蔽に関与したなどとして理事を辞任したが、令和2年9月に復帰。事業部の取締役にも就任し、創立130周年記念事業でもある医学部付属板橋病院の建て替え工事への関与を強めていった。「井ノ口容疑者のすべての価値基準は金」。日大の元幹部はそう吐き捨てる。

井ノ口容疑者の下で事業部が医薬品管理などにも手を広げる中、関係を深めていったのが、同じく関西圏で活動していた籔本容疑者だった。

籔本容疑者は、大物政治家らと頻繁にゴルフを重ねたり、芸能人やスポーツ選手らとの写真を自身のSNSに上げたりするなど、周囲に政財界との幅広い関係を誇示。一方で金遣いの荒さでも知られ、知人男性は「夜の街で一晩で数百万円を使い切ったり、ホステスのほほを札束でたたいたりすることもあった」と明かす。井ノ口容疑者とも大阪・北新地などで飲み歩いていたという。

籔本容疑者は、井ノ口容疑者らと並行し田中理事長とも交流。田中理事長が副会長を務める日本相撲連盟の副会長に就任したほか、日大関連の事業にも関わっていったとみられる。

ある日大関係者は、田中理事長が井ノ口容疑者を重用し、組織が機能しなくなっていたと指摘し、「今回の捜査でほとんどの日大の人が日大には変わってほしいと思っている」と語った。