【ビブリオエッセー】116の「探求と発見」の旅 「逃亡派」オルガ・トカルチュク著 小椋彩訳(白水社) - 産経ニュース

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116の「探求と発見」の旅 「逃亡派」オルガ・トカルチュク著 小椋彩訳(白水社)

2018年のノーベル文学賞受賞者となったポーランドの女性作家、オルガ・トカルチュクの長編小説である。刊行は2007年。前作『昼の家、夜の家』と同様にタイトルのついた断章形式で書かれている。

たった1行の章も含め全部で116章。現代や17世紀の解剖学者を主人公に人体組織への偏愛ともいえる執着を描いた物語や、クロアチア旅行で妻子が失踪してしまうポーランド人男性の物語、パリで死んだショパンの心臓を持って祖国ポーランドを目指した姉の物語など、一見ばらばらに見えるその断片たちは緩やかに連絡を保ち、読み進めると物語世界が立体的に立ち上がっていく仕かけになっている。巧妙な構築物のように。

簡潔にまとめるなら「内」(人体の内部)と「外」(世界)という2つの、あるいは二重の探求=旅といえるだろうか。解剖学は前者を、旅行は後者を表象している。

表題作「逃亡派」はロシア正教の一派の名前らしい。一断章のタイトルでもあり、モスクワの地下鉄を根城にする女性が登場する。「ゆれろ。動け。動きまわれ」と語り続ける女性。権力への不服従や私有財産の否定をはじめ移動、動き続けることが教義の一部だという。

巷間言われるように人生とは旅のようなものだろう。本書に描かれている断章もさまざまな旅のかたち。帯の言葉を使えば〈探求と発見〉の旅だ。もちろん外部に向かってだけ進むのではなく自分の内部に向かっても進んでいく。

そして内部と外部はフラクタル構造のように実は同じようなかたちではあるまいか。本書もそう語っているように思えた。

静岡市清水区 倉橋凜(39)

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