目測力と決断力の総裁選 今後求めるのは発信力 鹿間孝一 - 産経ニュース

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目測力と決断力の総裁選 今後求めるのは発信力 鹿間孝一

総理大臣として閣僚と記念撮影に臨む岸田文雄首相=4日、首相官邸(春名中撮影)
総理大臣として閣僚と記念撮影に臨む岸田文雄首相=4日、首相官邸(春名中撮影)

10月になって景色が変わった。新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言と蔓延防止等重点措置がすべて解除された。垂れこめていた雨雲が去って、天高く澄んだ秋空が見えた気分だ。そして岸田文雄新内閣が発足した。

自民党の総裁選挙は近年まれにみる面白さだった。これまでは結果が決まっている出来レースが多かったが、最後まで誰が勝つのかわからず、水面下の駆け引きも激しい政治のドラマを見せてくれた。個性の異なる4人の候補者の政策討論によって、自民党の幅の広さ、懐の深さと多様な人材を知らしめた。

ドイツの社会学者、マックス・ウェーバー(1864~1920年)の講演録「職業としての政治」(脇圭平訳、岩波文庫)は名著として知られる。この中で、政治家に必要な三つの資質として「情熱」と「責任感」と「判断力」を挙げている。

「判断力」の原文のドイツ語「アウゲンマス」は「目測力」とも翻訳される。ウェーバーはその意味を説明するくだりで、自分自身を「距離を置いて見る」ことの重要性を強調している。

岸田さんは前々回のコラムで書いたが、柿が熟して自然に落ちるのを待つ「熟柿(じゅくし)主義」から、「枝先に行かねば熟柿は食えぬ」に転じて出馬表明した。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と同義のことわざである。

しかも重鎮に反旗を翻すような党役員の任期制限を打ち出した。リスクは大きいが、この機を逃せば追い求めた首相の座が遠のくと判断したのだろう。それが菅義偉前首相の退陣というまさかの事態につながって、流れは変わった。ここぞというタイミングでの決断が勝利を引き寄せたのだ。

一方、決選投票を争った河野太郎さんは、苦戦が予想される衆院選の「顔」として期待が集まり、世論調査でも人気が高かった。それが過信を生み、自分自身を距離を置いて見ることができなかったのではないだろうか。

岸田さんに注文をつけたいのは「発信力」である。話し方が単調で、口癖の「しっかりと」だけが耳に残って、何をどうしっかりやるのかわかりにくいのは困る。キャッチフレーズの「新時代共創内閣」も意図が伝わりにくい。

最後に新首相には、ウェーバーの次の言葉を肝に銘じていただきたい。

「権力に溺れたナルシシズムや、軽薄な尊大さほど政治の力を堕落させ、歪めるものはない」

しかま・こういち 昭和26年生まれ。社会部遊軍記者が長く、社会部長、編集長、日本工業新聞社専務などを歴任。特別記者兼論説委員として8年7カ月にわたって夕刊1面コラム「湊町365」(産経ニュースでは「浪速風」)を執筆した。