【勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(325)】サイクル男 仲間がつくった打席 金村奮起 - 産経ニュース

メインコンテンツ

勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(325)

サイクル男 仲間がつくった打席 金村奮起

サイクルヒットを達成し、二塁でファンの声援にこたえる近鉄の金村=1986年07月17日,西宮球場
サイクルヒットを達成し、二塁でファンの声援にこたえる近鉄の金村=1986年07月17日,西宮球場

昭和61年シーズンの前半戦最後の試合、首位近鉄との12回戦で〝偉業〟が達成された。ヒーローは近鉄の「7番・三塁手」金村義明。二回に三塁内野安打を放った金村は四回に右中間三塁打、八回に左翼本塁打。あと二塁打を放てば自身2度目のサイクル安打達成となった。

7月17日 西宮球場

近鉄 010 200 034=10

阪急 001 000 001=2

(勝)小野12勝4敗 〔敗〕佐藤4勝2敗

(本)米村②(小野)金村⑦(今井)羽田③(宮本)

九回、近鉄ベンチで中西打撃コーチが大声を上げた。

「ええか、金村に絶対に打順を回せ。いまのお前らやったら絶対にできる」

この回の先頭は1番の大石。金村は7番。回すのは至難の業。ところが、大石が内野安打、新井が中前打、羽田がホームラン…なんと、2死一塁で金村に打順が回った。

「絶対に無理や―と思ってたから、みんなの気持ちがありがたかった」。金村の打球は右中間へフェンスを直撃。二塁ベース上で金村は帽子を取ってファンの歓声に応えた。

実はほんの1カ月ほど前、こんなことがあった。金村は「オールスターに出たい」と思った。いや、出られなくとも、新聞のファン投票欄で自分の名前が載ってるのを見たいと思った。

そこで両親が経営する焼き肉料理店にファン投票用紙1000枚を持ち帰り、食べにくるお客さん一人一人に「三塁の欄に金村って書いてください」と頼んで回ったのだ。すると7月3日の中間発表で三塁部門の4位に「金村」の名前があるではないか。そして10日に発表された最終結果は次の通り。

①秋山幸二(西武)17万4608票

②落合博満(ロッテ)6万9959票

③松永浩美(阪急)6万6007票

④金村義明(近鉄)4万8141票

「うれしかった。いくら頼んでも、ほんまに力を認めてもらえてへんかったら書いてくれへんしね」

兵庫県宝塚市出身の金村は子供の頃から阪急ファン。「ブレーブス子供の会」の会員で西宮球場で試合をするのが夢だった。その男が〝夢〟の球場で偉業達成。運命の神様の粋な計らい―である。(敬称略)