勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(324)

白球嫌い 滑って投げられない?実は…

素浪人に扮したアニマル、剣さばきは迫力満点=1986年11月30日、京都市右京区の東映太秦映画村
素浪人に扮したアニマル、剣さばきは迫力満点=1986年11月30日、京都市右京区の東映太秦映画村

「アニマルのテーマ」で歌手デビュー。オフには京都の太秦映画村で素浪人役に扮するなど、超人気者になったアニマルだが、ひとつだけ問題があった。それは〝白球嫌い〟。試合で頻繁に球審にボールの交換を要求した。普通、投手が交換を求めるのはボールが汚れたとき。ところがアニマルの場合はその逆。

「オレは真っさらの白いボールが嫌いなんだ。滑って投げにくい。もっと汚れたボールにしてくれ」

日本のボールは大リーグのボールに比べると革に塗っている蝋(ろう)が強い。各球団は試合前、ボールボーイたちが公式球を目の粗い砂でゴシゴシ揉んで準備する。アニマルはそれでは満足しなかった。

6月18日 山形県野球場

阪 急 110 040 000=6

ロッテ 000 012 001=4

(勝)古溝1勝 〔敗〕村田2勝6敗

(S)アニマル1勝11S

(本)福本③(村田)石嶺⑪(村田)水上②(古溝)

八回、マウンドに上がったアニマルは球審から渡されたボールを「これじゃ滑って投げられない。もっと揉んでくれ」と何度もクレーム。ついにはボールを踏みつけて真っ黒に。打者が「汚れて見にくい」と交換を要求。また踏んづける。これには審判団も怒った。

「もうあれはルール違反を飛び越えて野球選手のマナーの問題。以後、こんなことがあれば即刻、退場処分にします」と上田監督に通告した。

なんでそこまで神経質になるんや? ある日、アニマルにその理由を聞いた。

「オレはメジャーのドラフト1巡目(全体の9番目)の指名といっても、マイナー暮らしが長かった。そりゃぁ、ひどいボールだった。それに慣れてしまったんだよ。白いボールは滑り過ぎ」

いいお話だ―と思っていた。ところが、その年の秋季練習のこと。アニマルは当時、はやっていた「スプリットフィンガー・ファストボール」(通称SFF=フォークボールより浅く挟んで速球に近い落ちるタマ)のマスターに挑戦した。すると―

「もっと滑る真っさらのボールにしてくれ」「こんな汚れたボールはちっとも滑らない」と叫んでいるではないか。

調子のええやっちゃ―とあきれた。(敬称略)