受け継がれるノーベル賞・真鍋さんのアプローチ 渡部雅浩東大教授語る

自宅で記者会見する真鍋淑郎氏=5日、米ニュージャージー州プリンストン(AP)
自宅で記者会見する真鍋淑郎氏=5日、米ニュージャージー州プリンストン(AP)

地球の気候変動予測に関する道を開いたとして、2021年のノーベル物理学賞を受賞した米プリンストン大上席研究員の真鍋淑郎(しゅくろう)さん(90)。地球の大気・海洋の状態の変化をコンピューターで予測する手法を開発したが、温暖化の科学的な根拠を数式を用いて示すアプローチと情熱は現在も第一線で研究する気象学者らに受け継がれている。

「今」に至る理論

「うれしいし、予想していなかったから驚いてもいる。アイデアと工夫で道を切り開かれ、そのモデルは気候変動を考えるベースとなり、現在の多くの研究に生かされています」

渡部雅浩東大教授(提供)
渡部雅浩東大教授(提供)

今夏公表された、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書の執筆者の一人で、東京大大気海洋研究所の渡部雅浩教授は、真鍋さんの受賞についてそう語った。

真鍋さんはコンピューターの性能が十分でなかった1960年代に、大気を地上から上空までの1本の柱に単純化し、高度ごとの気温がどうなるかを計算。地球を取り囲む大気の状態の再現に成功した。この手法によって、二酸化炭素(CO2)を2倍にすると、気温が2・36度上昇するとの予測を示した。

さらに89年に発表した論文では、この手法を地球全体に拡張し、大気、海洋、陸上の気温が互いに与える影響を組み込み、地球温暖化が進むとの予測を出した。また、温室効果ガスの排出量が年間1%ずつ増えた場合、特に北半球の高緯度地域で温暖化が進むと結論付けた。

IPCCが90年にまとめた第1次評価報告書に取り入れられ、真鍋さんも執筆者を務めた。

渡部教授はいずれのモデルも現在の研究者たちによって用いられているとした上で、「60年代のモデルはシンプルなものですが、今に至るまで使われている理論。現在では、80年代の大気と海洋を結合したモデルの発展形が使われ、全地球の予測に役立っている」と語る。

渡部教授が執筆にかかわった6次評価報告書でも、大気中のCO2濃度が倍になった時に地表の温度が何度上昇するかという指標「気候感度」は、真鍋さんの気候モデルで世界で初めて推定された値を、比較の対象としている。今回の報告書で、複数の証拠を組み合わせ精査した形となっているのだが、真鍋さんの手法を起点、基礎として、予測モデルが高度化していることを示している。

カーボンニュートラルへのメッセージ

気候変動へのアプローチの仕方に加え、研究への「情熱」もまた受け継がれているものだ。

渡部教授が最初に真鍋さんと出会ったのは、約25年前の学生時代だった。気候変動について自身の研究を語る渡部教授の話をじっくりと聞き、自らの見解や知識を熱っぽく伝えてくれたという。

「すでに『世界の真鍋』だったのに、当時若かった私に対してもフレンドリーで、長時間、相手をしてくれ、とにかく刺激を与えてもらった。『本質的な答えを導きだすためにどうしたらいいのか』。そんな話をしていたことも覚えています。その姿勢は、いまも変わっていないと思います」

近年のノーベル賞選考は「社会課題の解決に役立つ貢献」がより重視されている。渡部教授は「真鍋さんの研究は当時は基礎科学だったが、それは今ではカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)に対して大きなメッセージになっている」とも語った。