真鍋淑郎氏の最大の功績は、人類が乗り越えなければならない地球温暖化という共通課題の存在を、コンピューターを駆使したシミュレーションで、科学的な根拠をもって明確に証明したことだ。
真鍋氏の気候モデルが登場する以前は存在自体に懐疑的な見方をする人が多かった温暖化に対し、世界中の関心が一気に高まった。世界の温暖化対策を牽引(けんいん)する国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)も、気候モデルに基づかなければ、各国が二酸化炭素の排出量削減を真剣に考える説得力ある報告書を作れなかっただろう。
IPCCが今夏発表した第6次報告書は、最先端の科学的知見で分析を行った結果、人間の活動が大気や海洋、陸域を温暖化させていると断言した。その報告書の直後に、半世紀前に科学的根拠を示した真鍋氏の受賞が決まったことは象徴的だ。
ノーベル物理学賞が地球科学に対して与えられることは非常にまれだ。真鍋氏は異例の受賞となるが、科学界最高の顕彰に値する功績だった。
近年のノーベル賞の選考はアルフレッド・ノーベルが創設した当初の精神に立ち返り、社会に役立つ貢献が、より重視されるようになってきたといわれる。人類共通の課題の解決につながる真鍋氏の業績が選ばれたことは、こうした選考委員会の姿勢の表れともいえそうだ。(伊藤壽一郎)