【スポーツ茶論】機会があって歴史はつくられる 蔭山実 - 産経ニュース

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スポーツ茶論

機会があって歴史はつくられる 蔭山実

【東京六大学野球秋季L】引き分けで終わった明大ー慶大=9月、神宮球場(撮影・田村亮介)
【東京六大学野球秋季L】引き分けで終わった明大ー慶大=9月、神宮球場(撮影・田村亮介)

「不戦敗、不戦勝は避けて、リーグとして6つのカードを完遂したい」

対校戦の歴史と伝統を改めて感じさせる出来事だった。コロナ禍で試合日程を大幅に変更して始まった東京六大学野球の秋季リーグ戦。法大が部員の感染による活動の中断で日程通りの出場が難しくなり、開幕直前に組み直した。連盟事務局長の言葉がその思いを如実に語っている。

通常は前季の順位を基に週末に日程を組むが、今季は開幕を9月11日から1週間遅らせ、法大の対外試合が可能となる10月9日の前週末までは5校で試合を行い、その後は当初の閉幕に向けて平日に法大の試合を集中的に組んだ。

法大の活動中止を聞き、高校野球の県大会や甲子園で経験したように出場辞退もあるかと不安になった。だが、活動再開の時期を考慮して日程を変更する手があるとは思いもしなかった。入れ替え制のリーグとは異なり、6校によるそれぞれの対校戦を、長い歴史の中で積み重ねてきたからこその英断だったと思う。

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早大と慶大のライバル関係は野球に限ったことではないが、東京六大学野球ではその他の大学も含めて互いにライバル心を燃やし、一戦必勝の戦いを演じている。プロ野球を思えば、分かりやすいかもしれない。

そもそもリーグ戦が1925年に創設されたときの最初の試合は明大と立大による明立戦だった。これもまた伝統の一戦である。

「次は明大戦。そこでしか演奏されない曲が聴ける」。慶大を応援する人たちからそんな話をよく耳にする。特定の対戦校との試合でしか演奏されない応援の曲があることも対校戦であることの表れだろう。試合中に演奏される曲は学生のオリジナルが多く、それを聴くのを楽しみにしているファンは多い。

それぞれの対校戦から相性をうかがうのも興味深い。近年は力が均衡し、混戦になることが多いが、この10年間でみると、早大は慶大にやや優位だが明大には劣勢で、逆に慶大は明大に優勢だ。この3校を法大、立大が追うが、この2校はいずれも東大との相性がよくない。この傾向はしばらく続くとみられる。

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ただ、過去にない変則的な日程となると、リーグ戦の展開は予想が難しい。通常は週末に4週連続して試合をすることはなく、試合の合間は長くて2週間だが、今季は4週連続で試合を行うことがある一方、合間が3週間になる場合もある。どのチームも未経験の調整に取り組んでいる。

ここに6校がそろって初めて成り立つリーグの重みがうかがえる。法大との試合にも当然、かけてきた5校の監督。「活動中断の事態があり得ることはどのチームでも同じだ」と、日程変更を特別と思わず、6校で乗り切る思いでいる。法大の監督が日程変更に涙ながらに感謝した胸の内は想像するに難くない。

一方で、神宮球場で並行して試合を行っている東都大学野球連盟の協力も忘れてはいけない。自らが努力する一方で、試合ができる環境が得られることに感謝することが何よりも大切であろう。

コロナ禍のスポーツ界への影響は多岐にわたるが、重要なのは選手が力を発揮する場を整えることだ。それは見る者にとっても一度しかない場であるともいえる。

機会があることによって歴史はつくられる。厳しい事態に直面して、歴史と伝統を継承するための知恵と努力を知る思いがした。それはスポーツの世界に限ったことではないだろう。