【朝晴れエッセー】香港のお母さん・10月5日 - 産経ニュース

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朝晴れエッセー

香港のお母さん・10月5日

20年前の香港。宿泊したホテルには、何カ所かきれいなトイレがあった。レストラン近く。地下のショッピングモールの近く。

そこには必ず「お母さん」が座っていた。

私が勝手に「お母さん」と心の中で言っていただけで、話しかけるときは「小姐(お姉さん)」と呼んではにっこり笑顔をいただいていた。

香港ではお母さんがいるトイレではチップがいる。トイレ用のコインを常にポケットに入れておいた。男性トイレには「お父さん」もいると聞いた。

私が行っていたトイレはお母さんがきれいに掃除してくれていて、私がトイレから出てくると、水を出してくれペーパーを渡してくれる。

サービスを受けた代わりにチップのコインをお皿に置くと、お礼を言ってくれる。

私は毎回、先にコインを置いてしまう。お母さんはスピーディーにお礼と水出しとペーパーの準備をしてくれる。

ある日、「学生さんか?」と声をかけられた。「卒業した」と返すと、息子さんが大学生だという。唯一知っている褒め言葉で、「非常聡明!(大変賢い)」と言ったら満面の笑顔になった。

香港のニュースを見るたびに、あの日のトイレのお母さんを思い出してしまう。

朝から晩までトイレにいた働き者のお母さん。トイレで得たチップで、息子さんを大学までいかせた偉大なお母さん。息子さんは40代か。

お母さん、お元気でいてね。そして息子さんと幸せに暮らしていてほしいです。