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左派が僭称した「リベラル」 論説副委員長・榊原智

親任式に向かうため官邸を出る岸田文雄首相 =4日午後5時31分、首相官邸(納冨康撮影)
親任式に向かうため官邸を出る岸田文雄首相 =4日午後5時31分、首相官邸(納冨康撮影)

今回の自由民主党の総裁選には、党のいわゆるリベラル化を阻む意義があった。河野太郎前ワクチン担当相は選択的夫婦別姓制度を容認し、首相としての靖国神社参拝を否定した。皇位の安定継承策は有識者会議を尊重すると述べたが、持論の「女系天皇」容認を否定しなかった。安倍晋三元首相が「党内がリベラルだらけになってしまう」と危機感を示した(1日付本紙)のはもっともだ。

ところで、自由民主党の英語名は「Liberal Democratic Party(リベラル・デモクラティック・パーティー)」だ。

また、安倍元首相は在任中、戦後世界の基調であるリベラルな国際秩序の守り手とされていた。自由や国際法、国際協調を重んじる立場である。国際秩序論の大家、アイケンベリー米プリンストン大教授は「リベラルな国際秩序」の擁護は「日本の安倍晋三とドイツのアンゲラ・メルケルという、リベラルな戦後秩序を支持する2人の指導者の肩にかかっている」(「フォーリンアフェアーズ」2017年5月号)と論じた。

安倍元首相は、覇権主義的な中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」を提唱した。米国が離脱した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を発効させた。先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、トランプ前米大統領と他の首脳の対立の裁定役だった。

自民結党は東西冷戦期の昭和30(1955)年だ。党名に「自由(リベラル)」を冠したのは、祖国を、共産主義のソ連や、ソ連に阿(おもね)る国内左派勢力に決して渡さないという決意の表れだった。

その自民の総裁選で、党のリベラル化阻止が、「リベラル国際秩序」の擁護者だった安倍元首相の課題になったのは「リベラル」が別の意味合いを帯びたからだ。

ソ連崩壊後、日本の左派の多くが隠れ蓑(みの)として「リベラル」を称した。それに紛れて、彼らの左派的主張が自民議員の一部に影響するようになった。この「日本型リベラル」の本質が左派なのは、立憲民主党が共産党との共闘に熱心である点からも分かる。

岸田文雄首相や自民は「日本型リベラル」に堕してはいけない。国際政治および結党以来の、本来の意味でのリベラルな保守政党として、専制主義を排し、自由を守るべきだ。内には社会の安定を守り、外には共産党支配の中国の脅威をはねのけなくてはならない。