イベントから運営資金にシフト 存続かけネット寄付に乗り出す文化芸術団体増加

永青文庫が実施しているクラウドファンディングの画面。すでに第一目標の1000万円に達し、1500万円を次の目標としている
永青文庫が実施しているクラウドファンディングの画面。すでに第一目標の1000万円に達し、1500万円を次の目標としている

文化芸術団体が、インターネットを通じて広く寄付を募る「クラウドファンディング」(CF)に乗り出すケースが増えている。従来はイベントを企画してその開催費用を集めるタイプが主流だったが、最近は運営資金を集めるケースが目立っている。新型コロナウイルス禍の長期化で、収入が減少したことが背景にある。人々の心を豊かにする文化活動継続のため、各団体は新たなアプローチで、資金とファン拡大を目指している。

CF事業を展開する「READYFOR」によると、文化芸術関連プロジェクトのうち、1000万円を超える高額プロジェクトの件数は、コロナ禍前と比較して2~3倍に増加している。このうち、特に増えているのが美術館や博物館。令和3年の美術館、博物館関連のプロジェクト件数は前年に比べて4倍、支援金額は前年比6倍になっている。

同社キュレーター事業部の廣安ゆきみ文化部門長は「寄付をベースに動いている国際協力団体などに比べると、文化団体では資金源として寄付を重要視しているところはそれほど多くなかった」と説明。事業収入▽自治体や国の公的助成金▽寄付-が文化芸術団体の財源の3本柱にしていたが、コロナ禍で事業収入が減り、公的助成金は近年減少傾向にあるため、寄付に注目が集まったという。

CFの種類もかつては、イベントや企画のために寄付を集めるということが主流だった。ところが、コロナ禍で団体の運営資金を募るケースが目立ってきているといい、廣安文化部門長は「今までは『運営費は寄付で賄うものではない』というイメージがあったが、『運営そのものも人々の善意に頼っていいのではないか』というイメージになった」と話す。

「最大の危機」で新たな試み

昭和6年に創立され、今年で90周年を迎えた「劇団前進座」は9月1日から今月31日までの期間で活動費、運営費に充てるための1000万円を第一目標にCFを行って達成し、次の目標として2000万円を目指している。

劇団の俳優、中嶋宏太郎さんは、コロナ禍がもたらした影響を「戦争を除くと、90年の歴史の中で最大の危機だと思います」と表現する。コロナ禍に伴う公演の中止や延期の影響で、今年8月までの損失は約2億5000万円に上る。劇団はこれまで劇団のホームページやダイレクトメールによる緊急募金を実施。それでも事態の長期化で状況が厳しくなり、新たな方策としてCFを始めた。

今回の取り組みにはもう1つの目的がある。新たなファン層の獲得で、中嶋さんは「前進座を知らない方に広めて、日本に前進座があることを知ってもらいたい」と力を込める。

今月21日までに1000万円を第一目標にし、9月22日に達成して次の目標である2000万円を目指している「東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団」も「存続の危機」を訴えている。同楽団は昭和50年、自主運営のオーケストラとしてスタート。令和元年度までの5、6年は黒字経営が続いていたが、2年度は約6000万円の赤字に。今年度も数千万円規模の赤字になる可能性もあり、CFで資金を募ることになった。星野繁太事業部長は「何度か大変な時期があり、なんとか乗り越えてきたが、コロナは想像以上の危機状況」と話す。

運営費のうち、出演料などの演奏収入が大きな割合を占めている。星野事業部長は今後について「どうなるか分からない」としたうえで、「演奏収入はどこかで頭打ちになると思うので、こういった手段を使って運営資金を集めることを1つの手段として考えていかないといけないと思う」とCFの可能性に期待する。

列なす修復必要な修復文化財

将来を見据え、すでに継続的実施を検討している団体もある。熊本藩主だった細川家に伝わる文化財約9万点の管理保存や研究、公開を行っている「永青文庫」は8日まで、「文化財修理プロジェクト」と題した第1弾のCFを実施。先月28日には第1目標額の1000万円に達し、次の目標である1500万円を目指している。

橋本麻里副館長は「これから先もコロナ収束の有無にかかわらず、修復を必要とする文化財は列ができて待っている状況」として、「1回で終わらずにこの先もできれば長く続けたい」と語る。

同館が新たな取り組みを始めた背景には、コロナ禍で入場者数が減って修理費用を確保するのが難しくなったという事情がある。所蔵する文化財のほとんどが未指定のもののため、修復費用を自ら賄う必要があるが、「そこに費用が割けないと文化財が劣化し、展示でお見せすべき良い物が減っていく」(橋本副館長)という。

8割が目標達成

コロナで苦境を迎え、寄付を募る文化芸術団体に対して人々の反応は良く、READYFORがサポートする文化芸術プロジェクトの達成率は約80%に上っている。

同社の廣安文化部門長は「CFは1回まとまった資金が集まったらそれで終わりというわけでもなく、むしろ1回成功したことをどう次につなげるかということがポイントになる」と説明。最近の傾向を「全体でみるとまだ1回という団体が多いと思うが、継続を目してやるところがすごく増えている」と話した。