首相拾った火中の栗 コロナで疲弊 つかめぬ世論

初の首相会見を行う岸田文雄首相=4日午後、首相官邸(矢島康弘撮影)
初の首相会見を行う岸田文雄首相=4日午後、首相官邸(矢島康弘撮影)

新型コロナウイルスが猛威を振るい始めてから3人目の首相が誕生した。岸田文雄政権でもコロナ対策が最優先課題となる。首相は感染防止対策だけでなく、コロナ禍で疲れ切った民心とも向き合わなければならない。

「わが国の民主主義そのものが危機にある」

首相は先月29日の記者会見でこう述べた。なぜ民主主義は危機に直面しているのか。首相は「国民の声が政治に届かない、政治の説明が国民の心に響かない、こうした厳しい切実な声があふれていた」と説明する。

安倍晋三元首相は国民を鼓舞する呼びかけで危機を乗り越えようとした。菅義偉(すが・よしひで)前首相は「弁舌よりも結果だ」と思い定め、実績を積み重ねることで国民の納得を得ようとした。これに対し、首相は「聞く力」で政権のかじ取りを担おうとしている。では、首相が耳を傾けようとしている民意はいかなる民意なのか。

欧米諸国と比べれば、日本の感染者と死者は低い水準で推移している。ワクチンも世界屈指のスピードで米国の接種率を追い越した。それでも世論の納得は得られず、菅氏は思い半ばで退陣を余儀なくされた。

結果そのものが失敗だったという評価もある。感染防止と経済の両立に腐心するあまり対策が後手に回り、ワクチン接種でも混乱したことが内閣支持率の低迷を招いたというわけだ。

それが本当ならば、自民党総裁選で繰り広げられた光景を説明するのは難しい。世論調査では、菅内閣でワクチン担当相を務めた河野太郎党広報本部長が圧倒的な支持を得たからだ。

菅内閣が出した成果にそっぽを向いた世論は、河野氏の巧みな弁舌、改革者のイメージに喝采を送った。印象論が先行し、結果は二の次となるのであれば、日本はまさに民主主義の危機に直面していることになる。

首相が世論の求める指導者像に合致しているとは言い難い。首相の話が退屈なのは、永田町では秘密でも何でもない。自著の中でも「元来、口下手です」と告白している。首相が総裁選で勝てたのは、河野氏の原発政策や年金改革案が党内で危険視されたからだ。

だが、自民党の国会議員に評価されたとしても、世論の荒波を乗り切ることができるとはかぎらない。就任直後には衆院選で信が問われ、来夏には参院選を控えている。この間に感染再拡大の「第6波」が到来する可能性もある。

その時、口下手な首相が懸命に政策を訴えても、世論は聞く耳を持たないかもしれない。首相が国民の声に耳をそばだてようとしても、世論は捉えどころがないかもしれない。首相はそのような「民主主義の危機」の中で火中の栗を拾った。(杉本康士)