伝説のバイク! ホンダNRの凄みとは…

車体には、レーシングマシンと同様、押出成形材に鍛造部品を溶接で組み合わせたアルミ製ツインチューブフレームを採用したが、絶対的な高剛性ではなくしなやかな変形具合でエレガントな操縦性とすることが目標とされた。上下非対称構造の片持ち式スウィングアームや、倒立式フロントフォーク、マグネシウム合金製ホイールなど高価な部品が惜しみなく投入され、隅々までバフがけされたアルミフレームなど、各部のクオリティにも万全を期した。

シャシーを包むフェアリングは、コンピューター解析や風洞実験でゼロリフトを達成した形状で、素材は手作りで張られたカーボンFRP製。NR独自の特別な存在感を生み出すべく、彩度の高い蛍光レッドの特殊塗装で包んだ。この塗装の原液が1kgあたり70万円だったというから驚く。

生産コストの話題でいうと、高精度が求められる楕円ピストンは1品ずつNC工法で製造しなければならないため、正円形ピストンの60倍の加工費を要したという。同様に楕円となるシリンダーの加工のため専用の機械が導入され、ピストンリングもシールの難しさをカバーするエキスパンダー付きの特殊品、さらに8本のバルブとコンロッドはすべてチタン製であるなど、NRの開発・生産には途方もない費用が注ぎ込まれていた。

当初300万円だった目標販売価格には到底収まらなくなり、折からのバブル崩壊によってNRは発売計画じたいが危ぶまれたが、プロジェクトが継続されたのは当時本田技術研究所専務で、のちに社長としてホンダ本体を率いる福井威夫氏のリーダーシップゆえだったといわれている。

実際、これまで例のないほど公道用モーターサイクルとしては高価なNRの販売実績は、限定生産ではなかったものの決して芳しくなかったという。

しかしこのNRの登場によって、ホンダがスケールとか野心とか技術力といった点において、世界の二輪メーカーの中で突出した存在であることを、多くのモーターサイクルファンは印象づけられたに違いない。当時ティーンエイジャーだった筆者には、およそ30年経ったいまも尊敬の念が消えずに残っているのだから。

文・田中誠司