伝説のバイク! ホンダNRの凄みとは…

高回転化のカギは吸排気バルブの面積を拡大しつつショートストローク化し、とにかく大量の混合気を早く燃やすことだ。そのためには1気筒あたり8本のバルブが必要と判断されたが、これを実現するには常識的な正円形ピストンでは対応できないことがわかっていた。

ある日、ホンダの技術者がひらめいたのがピストンを小判のような長円形とするアイデアだ。これなら片側に吸気バルブを4本、反対側に排気バルブを4本置くレイアウトが可能になる。テストの結果は上々で、パワートレインをカセット式に脱着できる革新的なモノコック式アルミシャシーと組み合わせ、「NR500」としてグランプリ復帰を発表した。ライダーには1977年世界選手権350ccクラスでチャンピオンを獲得した日本人、片山敬済が起用された。

謎のマシンでグランプリのトップカテゴリーに戻った元王者であるホンダは世界中から注目されたが、成績のほうは鳴かず飛ばず。超高回転域を常用するため信頼性・耐久性に難があるうえパワーも不足し、シャシーも未成熟だったことから、ポイントすら獲得できない4年間を過ごし、1982年には2ストローク3気筒エンジンを搭載した「NS500」に主役の座を譲る。

片山がレーサーとしてもっとも脂の乗った時期を棒に振ったことは、日本のレース界にとって残念な結果でもあった。翌1983年にはNSがフレディ・スペンサーの手によりあっさりチャンピオンを獲得してしまったことからも、ホンダのこだわりが裏目に出たことは明白であった。

高価な素材をふんだんに使用

しかしながらホンダは楕円ピストンエンジンをあきらめていなかった。むしろ“業界を塗り替える革新技術の開発”を旗印に、楕円ピストンを含む先進技術を満載し「ダイナミック&エレガント」な究極の市販モーターサイクルとして、NRの開発が推進されたのである。

V型4気筒748ccエンジンは気筒あたり8本のバルブ、ふたつのコンロッドとスパークプラグを備え、16ビット高速制御の燃料噴射システムが投入された。いままでにない細長い燃焼室が生むトルク特性は、レースベース車であるホンダ「VFR750R(RC30)」より14%も短い超ショートストロークであるにもかかわらず、きわめて幅広いパワーバンドを有し、排気音はV型8気筒エンジンを思わせる歯切れの良さだったという。

最高出力はフルパワーの海外向けでは最高出力130ps/14000rpm、最大トルク71Nm/11500rpmに達したが、国内向けでは自工会自主規制に則り77ps/11500rpmと53Nm/9000rpmに抑えられた。数字から想像するように両者を走らせて感じられる差は小さくなかったようだが、エンジン本体に構造・設計の違いはなく、吸排気系や燃料噴射のセッティングで出力を変えていたという。