「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記

最大のポイントは矢野采配、自身の野球観大切に最善手を打て

試合終了後、挨拶をする阪神・矢野燿大監督(右から二番目)=甲子園球場(撮影・斉藤友也)
試合終了後、挨拶をする阪神・矢野燿大監督(右から二番目)=甲子園球場(撮影・斉藤友也)

2015年以来、6年ぶりのリーグ優勝を目指すヤクルトの高津臣吾監督の後半戦の戦いには「大きな特徴が出ている」という球界関係者がいます。

「ヤクルトの先発投手陣の起用法だ。奥川、高梨、高橋、石川、小川、スアレス、サイスニードら先発陣の駒数を増やし、登板間隔を中6日以上きっちりとあけて投げさせている。先発の登板間隔を中5日とか中4日に縮めた原巨人とは真逆の采配だ。投手出身の高津監督らしく、投手にタップリと休養を与えて万全の状態でマウンドに送り出している。そして、登板間隔をあけることで疲労度も違い、シーズン終盤まで先発投手を万全の状態で回すことができる。先を読んだ采配だろう」

なるほど、ヤクルトの先発投手陣の登板間隔は中6日以上、場合によっては中10日という投手もいます。体力を十分に回復させてから次のマウンドに向かわせる…という高津采配が熾烈な優勝争いの最後の最後で効いてくる-と見る球界関係者がいるのです。

相手球団の監督采配を評価していても仕方ありませんよね。そうした高津ヤクルトと競り合い、阪神は最後には勝たなければ意味はありません。せっかく前半戦から首位を走り、2005年以来16年ぶりの優勝の期待が膨らんできたのに、最後はまたも敗者…というのでは、ファンの落胆も大きいでしょう。

最後の最後、勝者になるのか、敗者なのか-。全てのカギを握っているのは当然ながら矢野燿大監督ですね。佐藤輝やサンズの不振、リリーフ陣の疲労…などチーム内には難題があるのでしょうが、それを克服して勝利に結び付けるのが監督の手腕です。阪神が優勝にたどり着けるのか、敗退するのか、指揮官の選手起用や采配が全てを決めるポイントです。

強烈な思いが雑念やプレッシャーにもなる

古い話をして恐縮ですが、あれは1992年、阪神は中村勝広監督の下、最後まで野村克也監督率いるヤクルトと優勝争いを続け、最終的には67勝63敗2分けの2位に終わりました。逆に野村ヤクルトは69勝61敗1分けで優勝。ヤクルト監督としてノムさんは初優勝を飾り、その優勝が翌93年の連覇など都合4度のリーグ制覇、2度の日本一に結び付いたのです。逆に阪神は暗黒時代に逆戻り…。まさにその後の明と暗をクッキリと分けた92年の勝ち負けでしたね。

思い出されるのが、シーズン終盤に来ての中村監督の采配です。シーズン序盤からチームに勢いを与えた新庄に代打を送り、打撃コーチと一悶着(もんちゃく)あったかと思えば、天下分け目のヤクルトとの神宮決戦では先発ローテーションの軸だった湯舟を抑えで起用し、投手コーチの離反を招きました。

目の前にある「優勝」の二文字が励みにもなる一方で「勝ちたい」という強烈な思いが、雑念やプレッシャーにもなる。厳しい局面であればあるほど、監督采配によって、戦局やベンチのムードは180度変わってくるのです。10月戦線を迎え、なぜか92年のヤクルトとの死闘を思い出します。なので、矢野監督の采配、選手起用や戦術が今後の最大のポイントになる-と見るわけですね。

終盤に来ての矢野監督の采配にはさまざまな声が出ています。

「前半戦のように近本や中野ら機動力を駆使する場面が少ない。もっと選手を動かさないとダメだ」という声。「サンズやロハスがダメなら、高山や江越ら生え抜きの選手を起用してみたらいいのでは…」という声。「最後はやはり藤浪を1軍に上げて、起用してみたら…」という声。もう〝外野〟からは色んな声が飛んできています。これも人気球団の宿命でしょうか。

こうした声にひとつひとつ応える必要はありませんね。監督は自身の野球観を大事にして、チーム内の状況を最も知る者として、最善手を打ち続けるしかありません。その結果が「勝者」なのか「敗者」なのかで矢野監督は結果責任を負うだけのことです。

29年前のあの時、リーグ優勝を果たしていれば中村監督のその後の監督人生は大きく変わっていたでしょうし、野村監督の監督人生も大きく違っていたはずです。勝つか、負けるかで矢野監督の監督人生も大きく変わるでしょう。それほどの覚悟を持って、残り20試合に勝負を懸けてほしいものです。

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。