【いきもの語り】絶滅危惧のニホンイヌワシ、繁殖2世代目に - 産経ニュース

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いきもの語り

絶滅危惧のニホンイヌワシ、繁殖2世代目に

今春生まれた2羽のニホンイヌワシ。すくすくと成長している(東京動物園協会提供)
今春生まれた2羽のニホンイヌワシ。すくすくと成長している(東京動物園協会提供)

草刈りの音に驚き、止まり木からはばたくワシの幼鳥。生後半年だ。慌てたためか、うまく羽ばたけず、ケージの金網に足を引っかけ、ようやく止まった。

多摩動物公園では今春、2羽のニホンイヌワシが誕生した。親鳥が自分で卵を産んで子育てまでするのは、同園では3年ぶりだ。野生では先に生まれた方が攻撃するため、2羽目が育つのは難しい。

特に今回は、孵化(ふか)の間隔が6日も空いた。通常は4日程度のため、余計に体格差が生じかねず、心配されたが、杞憂(きゆう)に終わった。母鳥は攻撃されたヒナを抱いてかばったり、餌を均等に与えたりした。

見守ったのは、同園野生生物保全センターの小島善則主任(57)。猛禽(もうきん)類の飼育歴30年以上のベテランだ。「本当に面倒見のいい親鳥たちで、安心して子育てを任せられました」

2羽はすくすくと成長し、10月下旬にはフライングケージに移される。

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イヌワシは別名、ゴールデンイーグル。後頭部の金色が由来だ。幼い2羽はここが成鳥に比べて焦げ茶色で、羽を広げると白の斑点が見える。

ニホンイヌワシは国内での生息数が500羽前後と推計され、絶滅が危惧されている。そこで、平成8年に環境庁と農林水産省は保護増殖事業計画を策定した。これに基づき繁殖事業がスタートし、同園はそのトップバッターを担った。

10年に同園で初の繁殖に成功。以降、毎年のように他の動物園と協力して繁殖に取り組んできた。現在は18羽を飼育しており、国内有数の規模となっている。

小島さんは繁殖事業に当初から関わってきた。最も重要なのは環境だという。

「猛禽類の中でも特にニホンイヌワシは神経質。人に見られることがストレスになるので、落ち着いて営巣できる環境づくりに力を入れました」

野生のイヌワシは、断崖の岩肌に巣を作る。少しでも近づけるため、繁殖事業を始めるにあたって小島さんらは4メートル以上の高い位置に巣台を設け、来園者の目を遮るため岩肌を模した囲いで覆った。

環境さえ整えれば、あとは原則として人の手は加えない。巣の材料となる木の枝をケージ内に置いておけば、自然と営巣作業に入るという。20年以上たった現在もこの設備は使われており、多くのヒナたちが巣立っていった。

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「何とか繁殖に成功させようと死に物狂いだった当時に比べ、今では遺伝的な多様性を考えながら世代交代させていくという新たなステージに入りました」

小島さんは現在の課題をこう語る。ニホンイヌワシの寿命は30年程度とされる。繁殖事業がスタートしてから、世代が交代するタイミングを迎えている。

実際、今回の2羽の父親は、最初の繁殖に成功したカップルが16年に産んだ子供だ。一方、母親は最初の繁殖に成功した別のカップルの孫。つまり2羽は「繁殖2世代目」と言える。

国内の他の動物園では、繁殖によって生まれた個体と野生で捕獲した個体をカップルにするなど、遺伝的な多様性を確保する取り組みが始まっている。

「ニホンイヌワシは野生の個体数が少なく、生息している様子は自然界ではまず見られない」と小島さん。「飼育下での光景は極めて貴重であり、これを守るためにも、世代交代を進めていく必要があると思います」と語った。

(大森貴弘)