新「日常」の先㊤ 転勤よさらば 国境越えてテレワーク 

新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が全面解除された。だが「感染第6波」も予想され、コロナとの戦いは終わることがない。働き方や生活スタイルが一変した「新常態(ニューノーマル)」はこの先どうなるのか。コロナは今後も社会に変化を求め続けるのか、企業の動向から展望した。

ロンドンと日本

理美容医療機器メーカー、タカラベルモント(大阪市)の本社。広報室員が平岡三季(みき)室長(41)と打ち合わせに臨むのは、いつもオンライン会議システムを通じてだ。

画面の向こうの平岡室長がいるのは英ロンドン郊外の自宅。英国人男性との結婚が決まり、6月に日本から移住した。タカラベルモントは同社として初めて、国をまたいだテレワークを認めた。

時差は約8時間。「正直しんどい。英国時間で朝5時に起き会議に参加することもある。最近ようやく慣れてきた」。平岡室長は苦笑する。

渡英を決めた昨年9月、退職覚悟で上司に相談した。会社の判断は「向こうでも続けてほしい」。平岡室長は「うれしかった」と振り返る。

働きたい人がキャリアを続けられ、企業は人材を失わずにすむ。メリットは双方にある。「女性管理職のロールモデルになってほしい」。冨谷明宣(とみやあきのり)取締役(58)はこう語り、コロナ禍が過ぎ去ったとしても制度を続ける考えを強調した。

単身赴任やめ

子育てや介護で転勤が難しい人は多い。企業の間では、地方に住みながら東京や大阪の事業所などの仕事を行える制度も広がってきた。テレワークが転勤の概念すら変えつつある。

JTBは昨年10月、転勤の辞令が出ても転居せず働ける制度を導入した。20人以上が北海道や九州に住みながら東京や大阪の事業所に所属し、仕事している。

大阪の事業所で団体旅行の企画などを担当する山内務さん(54)は今年4月、制度を利用し、大阪での単身赴任をやめ家族の暮らす広島へ戻った。所属は大阪のままだ。

基本的に在宅や広島市内の事業所で作業し、月に一度、大阪へ出張する。将来、介護が要る可能性のある妻の父親が住む愛媛県へは広島のほうが交通の便がいい。「コロナで戻れず、失いつつあった家族との時間が増えた」。山内さんは笑顔を見せる。

NTTも9月28日、「コロナ後」を見据え、経営スタイルを大幅に見直すと発表した。リモートワークを基本とし、転勤や単身赴任は原則廃止する。

会社に異動を命じられ、転勤を繰り返す-。こんなキャリアパスは過去のものになるかもしれない。

人材の流動化

もっとも、サラリーマン人生と〝表裏一体〟だった転勤はこのところ、評価を落としていた。

社員はあまり転勤のメリットを感じていない。コロナ禍以前の平成27年、法政大の武石恵美子教授(人的資源管理論)らが行った調査では、会社側は転勤が社員の経験や人脈を広げるとの期待を持っていたが、社員側で「転勤経験が能力開発でプラスになった」としたのはわずか38・5%だった。転勤は配偶者が仕事をあきらめるなどのデメリットが大きく、しかも人材として育成された実感は低いのだ。

コロナ禍により、期せずしてテレワークという働き方が浸透した。人材サービスのパーソルキャリアの調査では、転職を検討する際の条件に「リモートワークが重要」とした人は50%超。「リモート環境があれば年収が下がっても良い」とした人も少なくなかった。

武石教授は、テレワークを活用した働き方はさらにアップデートし、「遠隔地や海外に住んでいても即戦力であれば採用されうる」と予想。人材の流動化が進んでいくとみる。

国境すら越え仕事ができる-。社員に新しい働き方を提供できない企業は、人材が流出し競争力を失いかねない時代に入った。