痛みを知る

 末期には胡座がかけない変形性股関節症

C痛み学イラスト【第65回】股関節周辺の痛み
C痛み学イラスト【第65回】股関節周辺の痛み

脚の付け根にあって、骨盤と太ももをつないでいる股関節周辺に痛みがある場合、その原因にはさまざまなものがある。

乳児期に発見される「先天性股関節脱臼」や幼小児期の「ペルテス病」(大腿=だいたい=骨頭の特発性壊死=えし=で5~8歳の男児に多い)をはじめとして「変形性股関節症」や「関節リウマチ」、さらには高齢者の転倒事故でみられる「大腿骨頚部(けいぶ)骨折」と、枚挙にいとまがない。 その他にも、スポーツ選手では「恥骨結合炎」や「内転筋付着部炎」などが痛みの原因となっていることもあるのだ。

こうした股関節周辺の痛みで、最も多くみられるものが「変形性股関節症」である。この病気は特発性(一次性)と先天性股関節脱臼や股関節の屋根の部分にあたる、骨盤の丸い窩みが変形する臼蓋(きゅうがい)形成不全などが原因となる二次性に分類される。欧米では一次性が50%を占めるが、わが国では二次性が90%以上を占め、特に中年以降の女性に多くみられている。

変形性股関節症は、関節の軟骨がすり減って関節裂隙(れつげき)(関節の隙間)が狭くなり痛みを生じるもので、障害の程度により前期▽初期▽進行期▽末期-の4期に分類される。前期はレントゲン上まったく異常がみられないものの、疲れると股関節の外側に重だるい痛みを感じる状態である。

初期になると軟骨が部分的にすり減って関節裂隙がわずかに狭くなる。この段階では、股関節そのものでなくお尻や膝に痛みを感じることが多い。進行期には軟骨が広範囲に障害されて関節裂隙が明らかに狭くなり、骨棘(こつきょく)(骨のとげ)が作られるようになる。

さらに末期では関節裂隙がなくなって、「靴下が履けない、足の爪を切ることができない、胡座(あぐら)がかけない」という状態になってしまう。初期は動作の開始時のみに痛むが、進行に伴い痛みは持続的となる。

初期の場合、治療は鎮痛薬(非ステロイド抗炎症薬)の服用と筋力強化のトレーニングが主体となる。この際に、鎮痛薬で痛みを軽くすると変形を進めかねないとする意見もある。進行期~末期になると股関節を矯正する骨切り術、人工股関節形成術などの手術が行われる。

股関節を取り巻く滑膜(かつまく)や関節包(かんせつほう)の炎症が痛みの主な原因の場合は、ペインクリニックの出番である。股関節周囲へのトリガーポイント注射や、腰の2番目の骨から出ている第2腰神経の神経根ブロック(レントゲン透視を用いる高周波熱凝固法)、腰神経叢(そう)ブロックなどを行う。

このほか、関節内へのヒアルロン酸ナトリウムや局所麻酔薬の注入、滅菌生理食塩液の注入、排液を繰り返すことで発痛物質などを洗い流す「パンピング療法」によって、痛みが軽くなることも多い。

なお、この病気では肥満が大敵である。痩身(そうしん)のためのブルブルマシンも使ってはいけません。

森本昌宏(もりもと・まさひろ) 大阪なんばクリニック本部長。平成元年、大阪医科大学大学院修了。同大講師などを経て、22年から近畿大学医学部麻酔科教授。31年4月から現職。医学博士。日本ペインクリニック学会名誉会員。