イマドキTV+

風光明媚でなくてもまぶしい「こころの風景」

人生、下り坂最高!

俳優の火野正平さんがつぶやいた言葉が、番組のキャッチフレーズ。『にっぽん縦断 こころ旅』(NHK・BSプレミアム)は、自転車で日本全国をめぐる旅ドキュメンタリーだ。どこを訪ねるかは、風まかせ、でなく、手紙まかせ。視聴者が投稿した「こころの風景」の中から選ばれる。

各回、スタート地点で正平さんが手紙を渡されるシーンから始まる。今日はどんな場所でどんな手紙なのか。読みながらほほえんだり、驚いたり、ツッコミも入れたりする正平さんの表情と、手紙の文字をカメラは追う。読みっぷりに、艶がある。

ずっと帰っていない故郷、大切な人との思い出が詰まった場所、どうしても忘れられない景色…。投稿者が、思いを込めてつづった文章が、温かみを帯びる。穏やかに、訥々(とつとつ)と。この朗読が人気の秘密。と勝手に思っている。

読み終わったら地図を広げて、お手紙の風景がどこにあるかチェック。10キロから20キロくらい走ることが多い。正平さんが乗るチャリオ君は、イタリア製の高性能ロードバイク。だけど、ガンガンこいだりはしない。のんびり、ゆっくり。

いい格好もしない。高所恐怖症なので高い場所は拒否。上り坂ではテンションが下がって文句をブツブツ。自転車ごと軽トラに乗せてもらったりもする。同走するカメラマンや監督と、走りながらおしゃべりして、寄り道もたっぷり。ゆるさ、が魅力。だからこそ、冒頭のような名言も生まれる。

とうちゃこ(到着をそう呼ぶのがお約束)したら、「こころの風景」を前に、もう一度手紙を読んで、投稿者に「来たよ」と報告。同じ手紙なのに、出発前とは少しトーンが変わる。文字でしかなかった土地を、映像として空気として体感するからだろう。

登場する風景は、息をのむような絶景のこともあるが、風光明媚(めいび)とはかぎらない。日本のどこにでもありそうな、小学校の校庭だったり、駅前広場だったりする。心のありようが、景色を美しくも醜くも見せる。正平さんの背中越しに見る路上の風景は、いつもまぶしく映えている。(ライター 篠原知存)

会員限定記事会員サービス詳細