だんじりが放つ独特の熱気 そのルーツに迫る

大阪天満宮の天神祭に登場した地車。嘉永5(1852)年製作の貴重な文化遺産だ
大阪天満宮の天神祭に登場した地車。嘉永5(1852)年製作の貴重な文化遺産だ

勇壮な引き回しの「岸和田だんじり祭」に代表される地車(だんじり)。岸和田を含めた大阪・泉州のイメージが強いが、河内、摂津にとどまらず瀬戸内海沿岸や九州など西日本各地でみられる。幼いころ岸和田で地車を引いたことで魅力にとりつかれ、今では祭りに欠かせない篠笛(しのぶえ)の奏者でもある森田玲(あきら)さん(45)が、地車の歴史的背景を調べ上げ、『日本だんじり文化論』(創元社)を刊行した。豪華な装飾や彫刻で人々を熱狂させる地車のルーツ、発展の過程に迫る。

 「地車文化を今後も見つめていきたい」と話す森田玲さん=大阪市浪速区
「地車文化を今後も見つめていきたい」と話す森田玲さん=大阪市浪速区

森田さんは、岸和田市に隣接する大阪府忠岡町出身。母の故郷である同市八木地区の地車を物心つく頃から中学2年まで曳(ひ)いた。20代の一時期にも関わったが、本来の地元ではない地区の地車を曳くことにためらいがあったといい、祭りの中心となる青年団には加わらなかった。「離れたときは、地車が恋しくて毎晩夢を見るほどでした」と振り返る。

 「日本だんじり文化論」
「日本だんじり文化論」

現在は京都市内に住み、地車囃子に欠かせない篠笛の製作を行うほか、岸和田城下を拠点に市民団体「だんじり彫刻研究会」のメンバーとして、地車彫刻の展覧会を開催するなどの活動を行っている。

こうした地車への並々ならない愛が、今回の執筆につながった。「起源から現在の様相まで、地車に関することはすべて盛り込みました」


地車の誕生時期を探ろうと、各地にある地車の構造や史料をたどったところ、江戸時代の享保年間(1716~36年)にその萌芽(ほうが)がみられた。ルーツとして、大阪の淀川を往来した絢爛(けんらん)豪華な川御座船や、俄(にわか)と呼ばれる滑稽寸劇を披露する移動式の芸能舞台にたどりついたという。

森田さんは「地車の形状には和船の記憶が随所に残っている。享保年間以降、大阪の夏祭りの中でも特に天神祭で多く見られた。地車は大阪独自の文化なのです」と説明する。

江戸時代の岸和田最古の地車。社寺建築の工法を採り入れた姿が美しい(岸和田だんじり会館蔵)
江戸時代の岸和田最古の地車。社寺建築の工法を採り入れた姿が美しい(岸和田だんじり会館蔵)

享保の時代から約300年。大阪を中心とする地車文化は、海路によって淡路島や中・四国地方の瀬戸内海沿い、遠くは九州の中津(大分県)、さらに日本海に面する城崎(兵庫県)にまで広がった。

「各地に根付いた地車は、修理や新調するタイミングで、その地域の地勢や嗜好(しこう)などの風土に合わせて、『芸能』『曳行』『造形』といった要素を取捨選択的に発展させていった」と解説する。

芸能志向の地車には、俄を演じる南河内や大衆演劇の舞踊を披露する中津、曳行型の代表格に岸和田、造形志向系には、豪華な飾り金具が全面に施された星田神社(大阪府交野市)の地車などがある。本書では、森田さんが各地をフィールドワークして入手した歴史的資料や絵図、写真、図版などがふんだんに掲載された。

「地車は、全国に数ある神賑(かみにぎわい)行事の祭具の中でも、独特の熱気を帯び、非日常の世界へ誘いエネルギーを与えてくれる」と指摘。「本書を参考に地車談議に花を咲かせたり、未来の担い手に読んでもらったり、活用してもらえればうれしいです」と話した。(横山由紀子)