【話の肖像画】元ソニーCEO、クオンタムリープ会長・出井伸之(83)(1)突然「次の社長は君だ」 変革の時代に挑戦 - 産経ニュース

メインコンテンツ

話の肖像画

元ソニーCEO、クオンタムリープ会長・出井伸之(83)(1)突然「次の社長は君だ」 変革の時代に挑戦

元ソニーCEOで、クオンタムリープの出井伸之会長(蔵賢斗撮影)
元ソニーCEOで、クオンタムリープの出井伸之会長(蔵賢斗撮影)

《ソニーの経営トップを務めた平成7年からの10年間。それはデジタル化の波が押し寄せた激動の時代だった》


DVDのフォーマットについての交渉でフィリップス社(本社・オランダ)を訪問するため、欧州に出張する直前、阪神大震災の翌日でしたが、社長の大賀典雄さんに突然、呼び出されました。そして何の説明もなく、「私の次の社長は君だ」と言われたのです。

私は即座にお断りし、そのまま出発しました。ただ長年の大賀さんとの付き合いから、一度口に出したことは撤回されないことは認識していたので、「これは断りきれないな」という印象は持っていました。

出張中はフィリップス社と交渉しながらも、それまで仕えてきた井深大さん、盛田昭夫さん、岩間和夫さんを中心とした創業者世代の方々との思い出を振り返りながら、この内示のことを考えていました。

創業者世代の方々はそれぞれ自分たちの夢を大事にされ、また部下や周りの方の夢も大事にされていましたが、この時点では亡くなっていたり、一線を既に退かれたりしていました。

私は創業者世代の方々から、常に新しいことにチャレンジさせてもらってきました。欧州への留学、文系出身者として初めての事業部長就任など、私のチャレンジを認めてもらいました。逆に私の意思に反して、パソコン事業など、ソニーとしての新しい変革や挑戦の担当者に任命されたこともありました。

入社以来のチャレンジを通じて、私自身の視野も広がり、グローバルレベルでの人的ネットワークを作ることもできました。当時、このネットワークからの情報により、インターネットの持つ破壊力の可能性を認識し、変革の必要性を大賀さんに進言していました。でも、自分が社長になるとは想像もしていませんでした。


《テレビやオーディオ機器の開発・販売からハードとソフトを融合するビジネスへ。ソニーのトップとして、時代の変化に挑戦していくことになる》


悩んだ末、このデジタル化の荒波の中で社長に就任することは創業者世代の方々の夢を引き継ぎ、次世代につないでいくことではないかと覚悟を決め、帰国しました。

帰国すると、私が出張前に断ったことがまるでなかったかのように、社長業の引き継ぎが始まりました。私から一度も大賀さんに「社長をやります」とは言いませんでしたし、大賀さんからも確認は一度もありませんでした。私にとってソニーにおける最後の、そして最大のチャレンジのスタートでした。(聞き手 米沢文)

【プロフィル】出井伸之(いでい・のぶゆき)

昭和12年、東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、ソニー入社。広告宣伝本部長などを経て、平成7年に社長就任。11年から最高経営責任者(CEO)兼務、12年から会長兼CEO。森喜朗内閣のIT戦略会議議長や経団連副会長を歴任。18年にクオンタムリープ設立、令和2年4月から会長として公私両面でベンチャー企業の支援に尽力する。


(2)にすすむ