点滴連続死初公判詳報

(1)「統合失調症で心神耗弱」、弁護人が影響主張

初公判に臨む久保木愛弓被告(イラスト 勝山展年)
初公判に臨む久保木愛弓被告(イラスト 勝山展年)

《横浜市の旧大口病院(現・横浜はじめ病院、休診中)で平成28年、高齢の入院患者が点滴の投与直後に容体が急変し、相次いで亡くなった事件。消毒液を混入させて中毒死で殺害したとして、患者3人に対する殺人罪などに問われた元看護師、久保木愛弓(あゆみ)被告(34)の裁判員裁判初公判が1日、横浜地裁(家令(かれい)和典裁判長)で始まった》

《久保木被告は捜査段階で「2カ月ほどの間に20人くらいやった」と供述。ただ、亡くなった患者の大半はすでに火葬されて遺体や血液などが残っておらず、殺人罪で起訴できたのは3件にとどまった》

《事件の最大の特徴は、犯行を裏付ける物証の乏しさだ。消毒液が混入された点滴袋は、いずれも無施錠のナースステーションに保管。犯行現場を映した防犯カメラなどの客観証拠はなく、任意聴取での自供が逮捕の決め手となった。検察側は被告の捜査段階の供述について、その信用性や任意性に関する立証に重点を置くとみられる》

《公判では、被告本人が犯行動機をどう語るのかも焦点となる。捜査段階では「自分の勤務中に患者が亡くなると、遺族が説明に納得してくれるか不安だった」と説明。だが、立件された範囲に限っても、わずか数日間で3人の命を奪った異様さに加え、歩行が可能だった患者も殺害するなど、「不安の解消」だけでは片付けられない謎も残る》

《午前11時前に傍聴人の入廷が許されると、久保木被告はすでに法廷内の弁護人の横に着席。上下ともグレーのジャケットにスカート姿でメガネをかけており、腰の近くまで伸びた黒い髪を真ん中で分け、後ろで束ねていた。マスクで口元が隠れて表情はうかがえなかったが、落ち着いた様子でじっと前を見つめていた。間もなく裁判員らが入廷すると、深々と一礼。裁判長の指示に従い、証言台の前の椅子に座った》

裁判長「名前は」

久保木被告「久保木愛弓です」

裁判長「住所不定、無職でいいですか」

被告「はい」

《小さいが、はっきりとした口調で淡々と裁判長の質問に答える久保木被告。検察官が起訴状の朗読を始めると、証言台で静かに耳を傾けた》

裁判長「今、読まれた事実について、違うところがあれば言ってください」

被告「全て間違いありません」

《久保木被告は捜査段階から変わることなく、一連の犯行を全面的に認めた。傍聴席からは記者が速報のために一斉に立ち上がり、一時法廷がざわついた。被告が元の席に戻ると、弁護人が立ち上がり、刑事責任能力について争う旨の意見を述べた》

弁護人「事実は争わないが、被告人は統合失調症による影響で、事件当時は心神耗弱の状態にあった」

《久保木被告は膝の上で両手を重ね、わずかに顔を紅潮させて弁護人の意見を聞いていた。続いて検察側の冒頭陳述が始まる》

=(2)に続く