公開中の作品から、文化部映画担当の編集委員がピックアップした「プレビュー」をお届けします。上映予定は予告なく変更される場合があります。最新の上映予定は各映画館にお問い合わせください。
「コレクティブ 国家の嘘」
2015年、ルーマニア・ブカレストのクラブ「コレクティブ」で起きた火災で一命を取り留めた負傷者37人が入院先の病院で次々と死亡。疑念を抱き調査を始めたジャーナリストにより製薬会社と病院や政府関係者との癒着が暴かれる。
私欲に駆られた人々による巨大医療汚職事件の闇と、それに対峙(たいじ)する市民やジャーナリスト、正義感あふれる保健相の姿を追ったドキュメンタリー映画。インタビューもナレーションもなく、カメラは観察者の視点で当事者たちの姿を淡々と捉えていく。
国家機関の権力と噓によって、救えたはずの命が失われていくという不条理。犠牲者の多くは若者だった。人の命よりも自分たちの利益を優先させた人々への怒りが映像を通して伝わってくる。
監督はルーマニア生まれのアレクサンダー・ナナウ。ルーマニア、ルクセンブルク、独合作。アカデミー賞国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞の2部門でノミネート。世界各国の映画祭で32の賞を受賞。
2日から東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、15日から大阪・シネ・リーブル梅田などで全国順次公開。1時間49分。(啓)
「TOVE/トーベ」
「ムーミン」の原作者でフィンランドの女性画家、トーベ・ヤンソン(1914~2001年)の半生を描いた伝記映画。著名な彫刻家だった厳格な父との軋轢(あつれき)や保守的な美術界との葛藤を乗り越え、自由で型破りな生き方を貫く。
舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーとの激しい恋。そして生涯のパートナーとなるトゥーリッキ・ピエティラとの出会い。フィンランドでは1971年まで同性愛は犯罪とみなされる中、トーベは女性を愛した。監督はザイダ・バリルート。フィンランド、スウェーデン合作。
1日から東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・なんばパークスシネマなどで全国順次公開。1時間43分。(啓)
空白
この感覚はなんだ。ひたすら何かを祈るしかないような、ラストシーンのまるで宗教画を見るような思いは。そもそも、「空白」というタイトルはなぜだ?
万引を疑われた少女がスーパーから逃げ、車にはねられて死ぬ。追いかけた店長(松坂桃李=とおり)と少女の父(古田新太=あらた)の葛藤をヒリヒリと描くが、ここには善人も悪人もいない。ただ不完全な人たちがいるだけだ。では、善意と悪意のどちらが正しいのか。そこは寺島しのぶがうまく演じる。監督は、吉田恵輔。脚本も手掛けた。前作の「BLUE/ブルー」からさらに深化した。
東京・新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマなどで全国公開中。1時間47分。(健)
クリスマス・ウォーズ
サンタクロースのクリス・クリングル(メル・ギブソン)は何百年もの間、雪深いアラスカの森に身を潜めながら、毎年クリスマスになると子供たちに贈り物を届けてきた。しかし、近年はサンタを信じない子供が増えて政府からの助成金が削減され、彼が営む玩具工場は財政危機に陥る。ある日、米国陸軍から依頼された兵器の製造を始めることに…。
サンタの命を狙う凄腕の暗殺者を前に、クリスは武装し、立ち向かう。バイオレンスなクリスマス映画だが、子供たちへのサンタの愛も感じられた。監督はイアン・ネルムズ&エショム・ネルムズ。
1日から東京・新宿バルト9、大阪・梅田ブルク7などで全国公開。1時間40分。(啓)