対米担当高官を解任、正恩氏が対米外交仕切り直し

平壌で開かれた最高人民会議=29日(朝鮮中央通信=共同)
平壌で開かれた最高人民会議=29日(朝鮮中央通信=共同)

【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記は9月29日、国会に当たる最高人民会議で施政演説を行い、韓国との関係悪化で断絶していた南北間の通信連絡線を10月初めから復旧させると表明した。バイデン米政権に対しては「軍事的な威嚇と敵視政策は少しも変わっていない」と批判し、対話の提案を拒否する立場を示した。朝鮮中央通信が30日に報じた。

バイデン政権に北朝鮮のミサイル発射を容認したり、米韓合同軍事演習の中止に応じたりする態度の変化が見られない中、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が来年5月までの任期内の南北関係改善を目指す韓国を先に取り込む戦術にシフトした形だ。米韓の足並みの乱れを誘い、戦略兵器開発に有利な環境を整える狙いもうかがえる。

南北は7月、通信線を約1年ぶりに復旧させたが、北朝鮮が8月の米韓演習に反発して定時連絡を再び遮断。韓国側は「通信の復旧が関係改善の第一歩」とみてきた。北朝鮮には南北関係改善に韓国世論の関心を引きつけ、北朝鮮に批判的な保守政権への移行を阻みたい思惑もありそうだ。

正恩氏は、文氏が国連演説で提案した朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言については、北朝鮮のミサイル実験だけを非難する二重基準と、米韓演習などの敵視政策を「まず撤回すべきだ」と要求。南北関係が発展するのか悪化が続くのかは「南朝鮮(韓国)当局の態度いかんにかかっている」と文政権に行動で示すよう促した。

韓国には「南朝鮮に危害を加える考えはない。北朝鮮の挑発を抑止すべきだという被害意識から早く脱すべきだ」とも呼び掛けた。北朝鮮による核ミサイル攻撃に備えた米韓共同の安全保障体制からの離脱を迫ったのに等しい。

反対に、バイデン政権が提案する「前提条件のない対話」について、正恩氏は「自らの敵対行為を覆い隠すためのベールで、歴代米政権が追求した敵視政策の延長にすぎない」と批判した。北朝鮮が「自衛権」の行使として繰り返す最近のミサイル発射を「国際社会への脅威」だと批判するバイデン政権への不満を表出させたといえそうだ。

正恩氏は「国防力強化は主権国家の最優先の権利だ」とし、兵器開発を加速させる姿勢も鮮明にした。

最高人民会議では、国家の重要政策を決める国務委員に正恩氏の妹の金与正(ヨジョン)党副部長や最側近の趙甬元(チョ・ヨンウォン)党書記らを選出。国務副委員長に金徳訓(ドックン)首相が就くなど、大幅な人事の刷新が行われた。対米外交を担ってきた崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官は委員を解任された。正恩氏は対米外交での「戦術的対策」を整える方針も表明。外交路線の仕切り直しを反映した人事とみられる。

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