自民党総裁選は29日、決選投票で岸田文雄前政調会長(64)が新総裁に決まった。同党県連は同日、党員・党友による投開票結果を公表、県内で最多得票を獲得したのは河野太郎ワクチン担当相(58)で、岸田氏は県内2位だった。県内からは新総裁への期待の声も聞かれ、同党では総裁選の論戦を通じ党への関心が高まったとして、次期衆院選での党勢拡大につなげたい考えだ。
県連によると、得票数は河野氏9072票(得票率50・68%)▽岸田氏4254票(23・77%)▽高市早苗前総務相(60)=3282票(18・34%)▽野田聖子幹事長代行(61)=1249票(6・98%)-だった。選挙人は2万7249人で、投票率は65・69%。
内閣支持率が低迷する中で、世論調査で人気が高かった河野氏が県内でも圧倒的な強さを見せ、岸田氏の倍以上を得票した。沈滞ムードを変えることへの期待感に加え、河野氏を支持する石破茂元幹事長人気も加わったとみられる。
河野氏を全面支援した山本一太知事は29日、「残念だったが、河野氏が県内で負ければ(自身は)面目丸つぶれで、(県内首位という)結果に安堵(あんど)した」と心情を吐露。その上で岸田氏と良好な関係を築いていくとし、「地方を大事にしてほしい」と要望を語った。
星名建市幹事長は岸田氏勝利の背景について「いち早く立候補を表明し、思いがしっかり伝わったのではないか」と述べた。
投票率は、通常通り実施された平成30年の総裁選の62・55%を上回った。単純比較できないものの、令和2年の予備選は59・10%だった。
県連関係者は、女性2人を含む4候補が連日のように新型コロナウイルス対策や安全保障、年金など幅広いテーマで交わした論戦の模様がメディアで報じられたほか、「選挙の顔」選びとして関心が喚起されたことも投票率が上昇した背景とみている。
今後の焦点となる衆院選に向け、こうした盛り上がりを追い風にしたい同党の星名氏は「新総裁のもと、ワンチームで総選挙に臨みたい」と語った。
一方、危機感を強める野党は、立憲民主党県連の後藤克己幹事長が「互いの政策を戦わせ、堂々と論戦を挑む」。共産党県委員会の小菅啓司委員長は「自公政治を終わらせ、命と暮らしを守る政治を実現する」と意気込みを語った。
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聞く力、改革に期待
「岸田新総裁」誕生に、県内では新たな政策や岸田氏ならではの手法に期待する声が、早くもあがった。
新総裁の「聞く力」に期待を込めたのは県商工会議所連合会の曽我孝之会長。「率直に言って、菅政権はブレーンを含め地方の中小企業に厳しく、議員を通じて地方の声を上げても、政策に反映されることは少なかった」という。「新総裁・新総理には官邸主導で突っ走るのではなく、もっと地方の県民・市民の声、各種機関の声を聞き、何がベストか判断し、政策に反映させていただきたい」
さらに政権内の世代交代も進めたうえで、経済政策で「生産性の向上、いかに中小企業が生き残っていけるか、意欲をかきたてるような政策を」と語った。
一方、新型コロナウイルス感染症対策の最前線に立つ県医師会の須藤英仁会長は、岸田氏に「さまざまな課題にバランスを取って取り組んでくれる方だと思う」と期待。コロナ対策では「在宅患者の情報を保健所と一般の診療所などの医療機関が共有し、協力できる体制づくりへ知恵を出してほしい」と注文した。
県中小企業団体中央会の吉田勝彦会長も「党改革を掲げ総裁選に臨んだ岸田氏に期待していた。大人の判断ができる方だ」と歓迎。「コロナ禍に苦しむ中小企業対策を充実してほしい。私の会社もコロナで休業状態で、社員の給料を下げざるを得ず賃上げもできない。そんな中、起訴された国会議員が給料を受け取っていることに憤りを感じた」と自民党への怒りも。
そして、「コロナも含めた災害対策が急務だ。災害対策省のような一本化した組織をつくってほしい。厚労相とワクチン担当相みたいな、いろんな人がいろんな発信をしていても分かりづらい」と語った。
県建設業協会の青柳剛会長は「コロナ禍の中、岸田氏の安定感が評価されたのかもしれない」と分析。今後は「国土強靭(きょうじん)化への投資拡大を(選挙戦で)主張しており、経済対策をはじめ政策重視で引っ張ってほしい」と期待した。