総裁選を追う

捲土重来の岸田氏「ノーサイドで衆院選へ」

自民党総裁選の投開票を前に、決起集会であいさつする高市前総務相=29日午前11時8分、国会
自民党総裁選の投開票を前に、決起集会であいさつする高市前総務相=29日午前11時8分、国会

29日の自民党総裁選は、昨年大敗した前政調会長の岸田文雄が捲土重来(けんどちょうらい)を果たし、第27代総裁に選ばれた。4候補による熾烈(しれつ)な戦いの終幕を追った。

■「支持率2%からの出発」 午前11時、高市陣営

高市は午前11時、陣営が国会内で開いた「必勝送り出し式」に姿を見せた。

「支持率2、3%からの出発だったが、多くの政策を訴えた。皆さんと政策を(首相として)実現できる日を心待ちにしている」。出席議員は総立ちで拍手を送った。派閥に属さない高市は、主義主張に賛同する保守の議員が支援した。当初はマスコミに泡沫(ほうまつ)扱いされたが、日を追うごとに議員の支持が増えた。

終始劣勢だった幹事長代行の野田聖子も11時、国会内の会合で支持議員に感謝の言葉を述べ、拍手喝采で送り出された。

■「山口が取れた!」 正午、岸田陣営

11時20分、岸田は国会近くの衆院議員宿舎を出る際、記者団に「後は天命を待つだけ。勝利を確信している」と強調した。青いネクタイは、役員任期制限を打ち出して「幹事長の二階俊博切り」と波紋を呼んだ8月26日の出馬表明記者会見と同じ。「総裁選の原点である覚悟を思い返し、臨みたかった」と語った。

正午、決起集会が始まり、表情をこわばらせた岸田は「岸田コール」に迎えられて会場入りした。

開会直前には、党員・党友票の都道府県別の集計結果が随時、会場に伝わった。河野圧勝とする事前報道が多かったが、一部で岸田が1位に。陣営関係者が「山口が取れた!」「青森が勝った」と会場で叫ぶと、出席議員が歓声と拍手。岸田自身も周囲に「想定外のところが取れている」とつぶやいた。

■「河野の応援は大変なこと」 正午、河野陣営

同じく正午、総裁選の会場でもある東京都港区のグランドプリンスホテル新高輪内で、河野の決起集会が始まった。

元防衛相の岩屋毅は「党員票はほとんどの県で1位。国民の声、党員の声は河野太郎さんにあります」と強調した。党員票で圧勝し、それをテコに議員票も上積みするのが陣営の戦略だ。ただ、総裁選中の年金制度改革の主張や失言などで「危なっかしい」との議員の声が増した。突破力と発信力が売りの河野だが、決起集会では神妙な面持ちで語った。

「(所属する麻生派=志公会会長の)麻生太郎さんから『総裁選で特に河野太郎を応援するのは大変なことだ。それをやってくれる皆さんのことは、これから何があっても体を張って守れ』といわれた」。出席者の一人が「そうだ!」と叫んだ。河野はスピーチ後に3度、深々と頭を下げた。

環境相の小泉進次郎は「『いろいろな事情で声をあげられないが(本心は)河野さんだよ』という人が1人、2人ではない」と強調。「隠れ支持」の議員がいると指摘し、議員票の伸びに期待した。

■岸田1位にどよめく 午後2時、投開票会場

総裁選管理委員長の野田毅が午後2時、4候補の得票数を読み上げた。党員票と議員票の合計は河野が255、岸田が256-。

会場がどよめいた。1回目は河野がトップに立つとの見方が大勢だったからだ。河野の決起集会に出席した議員は、代理出席も含めて92人。ところが議員票は86どまり。小泉の思いと裏腹に多かったのは「隠れ不支持」だったのか。

3時過ぎ、河野との決選投票の末、岸田が新総裁に選出された。岸田はマスクを着けたまま自席から立ち上がり、笑顔は見せなかった。「ノーサイドです。一丸となって衆院選、参院選に臨んでいこう」。演説後、現首相の菅義偉や他の3候補と壇上で並んで記念撮影に応じた際に、ようやく笑った。

■岸田の報告会で一丸誓う 4時過ぎ、高市

各陣営はその後、それぞれ結果報告会を開いた。

4時前、高市の報告会。表舞台には出なかった前首相の安倍晋三が姿を見せ「私たちの論戦で、離れかかっていた多くの自民党支持者が戻ってきてくれたのではないか」と説いた。議員票に限れば河野を上回り、陣営幹部は「次は最有力候補だ」と意気込んだ。

高市は4時過ぎ、決選投票で共闘した岸田陣営の報告会に顔を出し、岸田と笑顔でグータッチ。「一丸となって直近の衆院選、来年の参院選を勝ち抜く決意だ」と誓った。

岸田は就任後の記者会見で、総裁選で戦った3候補について「一緒に政策論争をする中で素晴らしさを実感させていただいている。党内において能力を発揮していただけるようなことを考えていきたい」と語り、新政権で処遇する考えをにじませた。夜はテレビ出演を見送り、人事構想を練った。(敬称略)

(田中一世、永原慎吾)

会員限定記事会員サービス詳細