点滴連続中毒死事件10月1日に初公判 物証乏しく証言に注目

平成28年に横浜市の旧大口病院(現横浜はじめ病院・休診中)で起きた点滴連続中毒死事件で、患者3人に対する殺人罪などに問われた元看護師、久保木愛弓(あゆみ)被告(34)の裁判員裁判初公判が10月1日、横浜地裁で開かれる。高齢患者が医療従事者に病院内で次々と殺害されるという異例の事件。直接的な証拠を欠く中、捜査当局は状況証拠を積み重ねて久保木被告から犯行を認める供述を引き出したとされ、法廷での発言に注目が集まる。

同病院で入院中の70~80代の男女3人が亡くなったのは、28年9月16~20日。いずれも点滴を受けた直後に容体が急変していた。神奈川県警が遺体や血液、病室近くに保管されていた点滴袋を調べたところ、医療器具の殺菌などに用いられる消毒液「ヂアミトール」に含まれる界面活性剤の成分が検出された。

異物が混入された点滴袋には、目立たないゴム栓部分に注射器で刺したような痕跡があることなども確認されたことから、県警の見立ては、早い段階から「医療知識がある内部関係者の犯行」だった。ただ、点滴袋が無施錠のナースステーションに保管され、誰でも触れる状態だったことや、院内に防犯カメラが設置されていなかったことなどから、捜査は難航した。

一方、事件発覚直後に設置された防犯カメラには、患者に投与する予定のない薬剤を持ち歩く被告の不審な姿が映っていた。その後、被告のナース服のポケットから界面活性剤の成分が検出されたことも判明。任意の事情聴取に踏み切った県警は被告から薬物混入を認める供述を引き出し、30年7月、殺人容疑での逮捕に踏み切った。

同病院では、事件の約3カ月前から被告が担当していた4階だけで入院患者約50人が死亡。1日に5人が亡くなることもあった。被告は「20人ぐらいに消毒液を入れた」と供述したが、遺体をはじめとした証拠類はすでに残っておらず、起訴できたのは3件の殺人罪と、5つの点滴袋に消毒液を混入した殺人予備罪だった。

被告は取り調べで「勤務中に患者が亡くなると、遺族が説明に納得してくれるか不安だった」などと動機を説明したが、公判で証言が覆る可能性もはらむ。捜査関係者は「自分のやってしまったことの重みに真摯(しんし)に向き合ってほしい」と話す。被害者の興津朝江さん=当時(78)=の姉は29日、初公判を前に「私は93歳になるが、この裁判を見るまでは生きなければとの思いで過ごしてきた。なぜこんなことが起きたのか、きちんと見届けたい」とコメントした。