勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(320)

宿敵・落合 山田、勝利も「打たれちゃイカン男に…」

ロッテの落合
ロッテの落合

■勇者の物語(319)

昭和61年シーズンの幕が開いた。4月6日、ロッテとの開幕戦。2点リードの阪急は八回、簑田、ブーマー、松永、熊野の4連打で村田をKO。エース山田がロッテ打線を6安打2失点に抑えて完投。大リーグ、ホワイトソックスの大投手、トム・シーバーの記録に並ぶ、12年連続開幕投手を勝利で飾った。

◇開幕戦 4月6日 川崎球場

阪 急 100 000 131=6

ロッテ 000 000 020=2

(勝)山田1勝 〔敗〕村田1敗

(本)落合①(山田)

ところが、試合後の山田は〝敗戦投手〟のようにベンチでうなだれた。

「もう、しゃべる元気もないよ。絶対に打たれちゃイカンあの男に、あのシンカーを打たれちゃ、何にもならんのよ」

〝あの男〟とは宿敵・落合のこと。60年シーズン、「山田VS落合」は18打数で7安打、4本塁打、7打点と落合が圧勝。ホームランを打たれた試合はすべて負け。落合の三冠王(2度目)獲得は「山田が打たれ過ぎたから」との声もあがったほど。それだけに闘志メラメラ。

「パ・リーグの投手の意地にかけてもアイツには打たれちゃいかん。開幕前に『ことしも三冠王を取る』と宣言され、あっさりとられたら投手の恥だ」

山田は秘策を練ってマウンドに上がった。「フルスイングさせなきゃ勝ち。アイツは本能で打つ男だから、それさえ狂わせば」。当時、採用となった〝新ストライクゾーン〟で低めに目がいっている落合の逆手をとり、カーブやスライダーを高めに集中。おや?と思ったところを低めのシンカーで打ち取る―という。

四回無死一塁の場面ではこれが成功。投ゴロ併殺に打ち取った。だが、落合も2度続けては引っかからない。八回2死一塁でそのシンカーを右翼スタンドへ豪快に叩き込んだ。

「併殺とホームラン。どちらもシンカー。痛み分けだね」と落合は笑った。

その年、山田に「落合の凄さとは?」と尋ねたことがある。山田はこう言った。

「普通の打者は難しいタマをヒットゾーンに打とうとして凡打する。でも、落合は難しいタマをことごとくファウルにするんだ。それが落合の凄さ。投手との根くらべ、ほとんど投手が負ける」(敬称略)

■勇者の物語(321)