小野田少尉の「内なる声」描く アラリ監督

新作への思いを語るアラリ監督(パリで 三井美奈撮影)
新作への思いを語るアラリ監督(パリで 三井美奈撮影)

太平洋戦争終結から29年間、フィリピンのルバング島で潜伏し、帰還した旧陸軍少尉、小野田寛郎(おのだ・ひろお)さんを描いた映画「ONODA 一万夜を越えて」が10月8日から、全国で公開される。フランス人のアルチュール・アラリ監督(40)が脚本を執筆し、全編日本語、日本人キャストで撮影した。作品に込めた思いを聞いた。

「小野田少尉は、たった一人になっても『まだ任務は終わっていない』という内なる声に従って生きた。国や時代を超えて、心に訴える人間性。それを描こうと決めた」と語る。作品は7月、カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門のオープニングで上映され、客席は総立ちになった。

製作のきっかけは8年前。映画の題材を考えていたとき、父に「終戦後もジャングルで過ごした日本軍人がいる」と教えられた。フランスで出版された小野田少尉の伝記を読み、のめり込んだ。

主役の小野田少尉は青年期を遠藤雄弥(ゆうや)さん、成年期を津田寛治(かんじ)さんが演じる。遠藤さんはインターネットでイメージに合うアジア俳優を探す中、顔写真が目に留まったという。

「彼は、演じる時は常に不安だと言っていた。どうなるか分からないまま、自分の置かれた場所を探そうとする。演技を超えて、真の感情が生まれる。それがよい」と絶賛する。

津田さんは、黒沢清監督作品「トウキョウソナタ」(2008年)で見せた表情が印象的だった。オーディションで演技を見て即決し、「OK。これはあなたの役だ」とその場で伝えたという。数カ月後に再会した時、げっそり痩せていた。「撮影は半年先だったので『役作りはいいが、これでは健康を害する』と注意した。彼は『体重は戻すから大丈夫。痩せたら、どう映るかをあなたに見せたかった』と言った。作品にかける気迫を感じた」と話す。

撮影は2019年春まで、約4カ月間。ほとんどがカンボジアのジャングルでのロケだ。「暑さと湿気はこたえた。日本人の役者たちは『東京の8月並み』と言って、平気な顔をしていた」と笑う。

映画製作は6作目。祖父は俳優、兄は撮影監督という一家に育ち、パリ大学で映画を専攻した。俳優としても活躍する。映画出演を通じて諏訪敦彦(すわ・のぶひろ)監督と知り合い、今回は小野田少尉の父親役で出演を依頼した。作品では、常に「父性」というテーマにこだわってきた。

「私にとってこの作品は、日本人に見てもらうことが重要なんだ。映画を見ている間、フランス人監督の作品だということを忘れてくれれば、こんなにうれしいことはない」と、日本公開への思いを語った。(パリ 三井美奈)

<あらすじ> 陸軍中野学校二俣分校で特殊訓練を受けた小野田寛郎少尉は「必ず迎えに行く。玉砕は許さぬ」という訓示を受け、比ルバング島に派遣される。任務解除の命令は届かず、終戦から29年間、部下を次々と失いながらジャングルで孤独な戦いを続ける。実話を基に、再構成された。

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