大阪3歳児殺害 母親と面会90回超 摂津市、容疑者とは1度のみ

大阪府摂津市で3歳児が虐待死した事件を受けた会見の冒頭、頭を下げる森山一正市長=28日午後、摂津市役所(前川純一郎撮影)
大阪府摂津市で3歳児が虐待死した事件を受けた会見の冒頭、頭を下げる森山一正市長=28日午後、摂津市役所(前川純一郎撮影)

大阪府摂津市のマンションで8月、新村桜利斗(にいむらおりと)ちゃん=当時(3)=が熱湯をかけられ死亡した事件で、桜利斗ちゃんの保育にからみ、市が90回以上にわたり母親と面談していたことが28日、市などへの取材で分かった。頻繁な面談にもかかわらず、市は母子が母親の交際相手の松原拓海(たくみ)容疑者(24)=殺人容疑で逮捕=と同居していたことを把握していなかった。松原容疑者の逮捕から29日で1週間。市や府は当時の対応に問題がなかったか検証する方針だ。

市によると、母子が大阪府泉南市から摂津市へ転入した平成30年10月以降、母親が若く出産したことなどから、養育支援など継続的な見守りが必要な家庭として月に数回面談。自宅や市役所などでの面談はこれまで91回に上り、母子の健康状況などを確認した。

松原容疑者が母子と同居を始めた今年5月以降、複数の知人から「桜利斗が殺される」などと相談が相次いだ。市は同月、母子への面談で桜利斗ちゃんに目立った傷がないことを確認。さらに松原容疑者と面談して虐待をやめるよう警告し、「もう手を出さない」と約束させた。だが、松原容疑者との面談はこの一度きりで、市や児童相談所は松原容疑者が母子と同居していた実態までは把握していなかった。

一方、市は母親が第三者からの暴力を防げていないなどとして、「ネグレクト(育児放棄)」と判定していた。ただ、桜利斗ちゃんの体に傷がないことなどから「緊急性は低い」として、引き続き市を中心として母子を見守ることにした。市が桜利斗ちゃんと最後に会ったのは事件の約2カ月前で、一度も個別面談は実施しなかった。

摂津市の森山一正市長は28日記者会見を開き、「自治体としての役割は果たしていたつもりだが不十分だった可能性はある。どこに問題があったのか、今後検証していく」と話した。

摂津署から送検される松原拓海容疑者=大阪府摂津市
摂津署から送検される松原拓海容疑者=大阪府摂津市

行政機関が虐待の疑いがあると把握しながら、死亡事件に発展するケースは後を絶たない。とりわけ今回の事件では、大阪府摂津市が母親と繰り返し面談したにもかかわらず、未然に防げなかった。専門家は「踏み込んだ調査がなければ、本当の生活実態は見えてこない」と指摘する。

行政認識に甘さ

「市として、できる限りの取り組みを行ってきた」

28日に摂津市が開いた会見で、森山一正市長は今回の対応を問われ、こう言い切った。母親との90回以上にわたる面談に、市役所内の部署を越えた連携、児童相談所との情報共有-。市側として手を抜いたつもりはなかったというが、事件を防げなかった。

こうしたケースは今回が初めてではない。平成30年に福岡県田川市で1歳の男児が両親にエアガンで撃たれて死亡した事件では、事件前に市が両親と計18回面談していたが、母親の説明だけで家庭の状況を判断。令和元年に札幌市で2歳の女児が衰弱死した事件でも、児相が母子と面会して母親の態度から「育児放棄はない」と判断し、立ち入り検査を行わなかった。

共通するのは、行政側の虐待に対する認識の甘さだ。児童虐待に詳しい東京通信大の才村純教授は「乳幼児の顔からけがが確認されたという情報があった時点で、極めて危険な状態と判断すべきだ。面談に協力的な家庭に対しても、踏み込んだ調査が必要だ」と強調する。

コロナ禍も影響

虐待は親の再婚など家庭内に変化が起きた時にリスクが高まる傾向にある。さらに今回の事件では、新型コロナウイルス禍も影響した可能性がある。

新村桜利斗ちゃんが通う保育園では、関係者に新型コロナの陽性者が出たため、事件の約1週間前から複数のクラスが閉鎖になっていた。市は桜利斗ちゃんの様子に異変がないか保育園に見守りを依頼していたが、閉鎖によってできなくなったとみられる。

厚生労働省のまとめによると、全国の児相が令和2年度に児童虐待として対応した件数は統計開始以来最多の20万5029件(速報値)。コロナ禍で在宅時間が多くなるなど家庭環境が変化する一方、見守りなどの支援が行き届きにくくなったことが要因の一つと推測される。

関西大の山縣文治教授(子ども家庭福祉)は「家庭のささいな変化に行政がいかに敏感に反応できるかが重要になる。関係機関同士で連携し、異変をつかんだ際は一時的にでも虐待に対する危機感を高め、保護などの対応を検討すべきだ」と訴えている。