偽作版画「鑑定不在」浮き彫り 詐欺罪適用も困難

奈良県大和郡山市内にある北畑雅史容疑者の工房=27日午前
奈良県大和郡山市内にある北畑雅史容疑者の工房=27日午前

日本画の大家、平山郁夫や東山魁夷(かいい)らの絵画を基にした偽版画をめぐり、著作権法違反容疑で、大阪府池田市の元画商、加藤雄三容疑者(53)ら2人が逮捕された。人気の高い大家の偽作を大量に流通させたことにより、市場での値崩れを起こす事態まで招いていた。事件は、鑑定書や専門の鑑定機関などが存在しない版画業界の問題も浮き彫りにした格好となった。

鑑定機関存在せず

「日本のアート産業に関する市場レポート 2020」によると、国内の版画の市場規模は186億円。美術における国内事業者売り上げのうち、約7割は百貨店と画廊が占めている。

しかし、版画に関しては国内に専門の鑑定機関がこれまで存在せず、芸術作品の取引などで本物であることを証明する「鑑定書」もないまま、売り買いされているのが現状だ。

関係者によると、百貨店などにはかつて、美術品を見る専門担当者らがいたが、長引く不況で、こうした人員を育成することが困難になったという。結果的に「画商との信頼関係を頼りに作品を取り扱うしかなくなってきた」(関係者)という。

120点が偽作

「日本現代版画商協同組合」(日版商)は今回の問題を受けて調査委員会を立ち上げ、加藤容疑者が代表を務めていた「かとう美術」が持ち込んだ版画10作品を鑑定したところ、今年5月までに鑑定した計201点のうち約6割に当たる120点が偽作だったと明らかにした。百貨店からも鑑定依頼があったという。

ただ、今回偽作に携わり、加藤容疑者とともに逮捕された奈良県大和郡山市の版画工房経営、北畑雅史容疑者(67)は、正規の修復依頼なども請け負っており、調査委員会は「見た目ではわからずいろんな機器を使い科学的分析をしたものもあった。百貨店側も一概にスキル不足とはいえない」という。

偽作の大量流通を許してしまったことについて、調査委員会は「例えば100枚刷ったのなら、それぞれに本物である証を付けていればこのようなことは起きなかった」と版画業界のこれまでの通例を断じた。

詐欺罪適用難しく

今回、加藤容疑者らは著作権法違反の疑いで逮捕されたが、詐欺罪は適用されなかった。美術作品に関する法律に詳しい慶応大法科大学院の島田真琴教授は、「絵画と異なり、版画は複製しやすく、同様の作品が多く流通しているため、特に相手をだましたことの証明が難しい」と説明する。

著作権者の許可を得ていない版画であったとしても、購入者がその版画自体を気に入っている場合、厳密に購入者をだましたとは言い難く、詐欺の要件である相手をだまして錯誤に陥れることを指す「欺罔(ぎもう)行為」に当たらない可能性がある。

偽作を購入したと明るみに出したくない購入者などもいることから、購入者1人1人に欺罔行為について確認していくことは時間がかかりすぎてしまうという。

島田教授は「専門の鑑定機関はどこまで需要があるのか分からない」とし、版画を取引する際の条件や不審な版画を発見した際にどこに報告するかなどの取り決めが必要だとした。

調査委員会は今回の事件を受け、今後の方針を改めて発表するとしている。

元画商ら2人を著作権法違反容疑で逮捕 偽版画事件