CO2を吸い込むコンクリートに熱視線 鹿島、カーボンニュートラル追い風に普及加速へ

地球温暖化を引き起こす元凶といわれる二酸化炭素(CO2)を資源と捉え直し、有効利用する。気候変動対策の強化が求められるなか、新たな発想によるCO2の活用「カーボンリサイクル」への期待が高まっている。政府は昨年12月に策定した「グリーン成長戦略」で政策支援する重点分野に指定し、代表的な技術の一つとしてCO2を吸収して固まる鹿島のコンクリート「CO2-SUICOM(スイコム)」を明記した。カーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)実現への機運を追い風に、鹿島が進める普及加速への取り組みを探った。

1立方メートルに100キログラム以上を固定

温度50度、CO2濃度80%━鹿島技術研究所の西調布実験場(東京)の一角で、業務用冷蔵庫と似た形状の装置がかすかな稼働音を響かせる。装置内の環境条件を表示する数字パネルからガラス扉の中に視線を移すと、直径10センチ、高さ20センチの円柱型コンクリートが並んでいた。

「高濃度のCO2をコンクリートに吸わせて、内部に固定しているんです。取違(とりちがい)剛上席研究員はスイコムの製造に使用するCO2吸収装置を前にこう説明した。

西調布実験場で稼働するCO2吸収装置を前に話す取違剛上席研究員
西調布実験場で稼働するCO2吸収装置を前に話す取違剛上席研究員

住宅や高層ビルなど幅広く利用されている一般のコンクリートは砂や砂利に、水と反応して固まるセメントを混ぜてつくる。砂や水は製造過程でCO2をほぼ出さないが、石灰石を約1400度で焼成してつくるセメントの排出量は多い。鹿島によると、コンクリート1立方メートルの製造でセメント由来のCO2排出量は288キログラムに上り、コンクリートの排出量の大半を占める。

これに対し、スイコムは、CO2と反応し「炭酸化」することで固まる特殊な材料(γC2S)をセメントの代替材料の一部に活用。従来は水で固まる高炉スラグなど産業副生成物に置き換え、CO2を削減してきたが、γC2Sも混ぜることで吸収・固定まで可能にした。結果、セメント量は3分の1に低減したうえで、残った分の排出量約90キログラムを上回る100キログラム以上を炭酸化で吸い込み排出量をゼロ以下にする「カーボンネガティブ」を実現している。

(※)鹿島技術研究所の試算を基に作成
(※)鹿島技術研究所の試算を基に作成

取違氏は「従来の技術では排出量を削減することはできても、ゼロ以下にはできない。カーボンニュートラルの実現には、CO2の吸収・固定が不可欠だ」と話した。

常識覆す発想の転換

スイコムは世界初の技術を目指して2008年に開発に着手した。(※)2010年度には共同開発する中国電力の三隅発電所(島根)の排ガスや石炭灰を利用して製造し,実用段階に入っている。(※)中国電力、鹿島建設、デンカ調べ

世界の先を行く画期的な開発を可能にしたのが、長年の材料研究の蓄積と大胆な発想の転換だ。

建築物やインフラに利用されるコンクリートは強度や施工性に加え、耐久性が求められる。鹿島技術研究所は約30年前からテーマの一つとして耐久性の研究を続けるなかで、古代から残る遺跡に着目。中国で発掘された約5000年前の住居跡のコンクリートを調べたところ、当時,中国の限られた地域で使用されていたコンクリートはかまどなど生活から出るCO2と反応し、表面が緻密になって水の浸食を防ぎ強度を維持していたという。

渡邉賢三土木材料グループ長は「炭酸化が耐久性の向上に有効だと気付き、長寿命化に活かせると考えた」と振り返る。この研究の成果は、炭酸化を促進するγC2Sの知見を持つ化学メーカー・デンカの協力を得て、推定寿命1万年というコンクリート「EIEN(エイエン)」として2006年に実を結ぶ。次の展開を探るなかで、鹿島が注目したのがCO2を吸収・固定する働きだった。

EIENの研究にも携わった渡邉賢三土木材料グループ長
EIENの研究にも携わった渡邉賢三土木材料グループ長

一般的なコンクリートはアルカリ性で、内部に使う鉄筋などの錆(さ)びを防ぐとされる。炭酸化はこの機能を弱める恐れがあるとされ、業界の常識的にNGとされてきた。しかし、取違氏らは発想を転換し、「あえてCO2の吸収を促進し、固定するとどうなるかに挑戦した」。中国電力やデンカに加え、コンクリートプレキャスト製品メーカーのランデス(岡山)とも共同開発に取り組み、γC2Sやほかの材料の配合バランスなどを約2年間かけて試行錯誤し、スイコムを生み出した。

鹿島によると、炭酸化で強度はやや高まるという。さらに、鉄筋の補強材としてガラス繊維を使うなどの方法も検討し、普及に向け万全を期している。

スイコムでつくった消波ブロック(右)と一般のコンクリート。セメントの代わりに、デンカのγ-C2Sを使ったスイコムは、植物のようにCO2を吸収・固定する
スイコムでつくった消波ブロック(右)と一般のコンクリート。セメントの代わりに、デンカのγ-C2Sを使ったスイコムは、植物のようにCO2を吸収・固定する

30年に市場規模15兆~40兆円

政府は今年7月、グリーン成長戦略で重点分野に位置付けたカーボンリサイクル技術開発の道筋を示すロードマップを改訂。CO2を吸収・固定するコンクリートは2030年ごろから道路ブロックなど特定用途で普及が始まり、需要が多い汎用(はんよう)品にも「2040年ごろ」に広がるとしている。改訂前、汎用品は「2050年ごろ」としていたが、前倒しして取り組みを加速する。

しかし、普及に向け越えるべきハードルは多い。鹿島によると、スイコムの導入実績は実用化から10年で、環境への配慮を特徴とするマンションの天井や太陽光発電所の基礎ブロックなど15件程度。プロジェクトをまとめる坂井吾郎主席研究員は「これまでコンクリートは強度などが重視され、CO2の吸収という機能には需要がほぼなかった」と分析する。

スイコムを使用した道路の境界ブロック(左)と舗装ブロック
スイコムを使用した道路の境界ブロック(左)と舗装ブロック

世界的なカーボンニュートラルへの機運の高まりで、スイコムの提供する付加価値への評価は見直されているが、生産体制や価格などの課題はある。重量のあるコンクリートは価格に対して輸送費が割高になるため地産地消が主流だが、スイコムは生産設備を持つメーカーがランデス(岡山県真庭市)などに限られ、需要に応えられないケースもあったという。特殊な代替材料を使うため価格は1キログラム100円と、一般的なコンクリート製品の30円の3倍超に上る(※1)。

このため鹿島は都市圏のメーカーに協力を呼びかけ、生産ネットワークの整備を進める。合わせて、価格低下につながる製造工程の効率化や適用領域拡大など技術の進化に挑んでいる。

スイコムは現在、工場で事前に成形する「プレキャスト」方式でつくる。炭酸化には時間がかかるケースもあるが、表面に穴をあける、CO2の触れる部分を増やすなど工夫を施し、厚さ4センチのパネルは一般製品と同等の1日に製造期間を実現している。

また、プレキャストよりも市場規模の大きい、生コンクリートを建設現場で打設する方式への適応方法も研究する。国内の年間使用量は、主に道路ブロックやパネルになるプレキャストが1500万立方メートルに対し、大規模な建築物の構造材にもなる現場打設は5・5倍の8200万立方メートル。CO2排出量もプレキャストの年450万トンに対し、現場打設は2500万トンと削減余地が大きい(※2)。

鹿島は昨年度から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の受託研究で、現場打設への適用領域拡大に取り組み始めた。建設現場でいかにCO2の吸収・固定を実現するかなどの方法を追究し、導入の自由度を高めて需要拡大につなげたい考えだ。

スイコムの研究開発のマネジメントを担当する坂井吾郎主席研究員
スイコムの研究開発のマネジメントを担当する坂井吾郎主席研究員

政府によると、CO2を吸収するコンクリートの市場規模は2030年に15兆~40兆円に膨らむ見込み。鹿島は先駆者として新たな市場を切り開き、気候変動対策を成長への原動力にすることができるか。坂井氏は「住宅やビル、橋などあらゆる建設物のコンクリートが、CO2を吸収・固定する可能性を秘めている。スイコムの活用を広げ、カーボンニュートラルに貢献したい」と語った。

(※1)経済産業省などの「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」より引用

(※2)ZENNAMAとセメント協会の2019年度の統計を基に引用。プリキャストコンクリートとCO2排出量は鹿島技術研究所による推計値。

提供:鹿島建設株式会社