江戸川区自然動物園(同区北葛西)で、6月に生まれた「ブラウンケナガクモザル」の赤ちゃんの愛くるしい姿が、訪れる人たちを楽しませている。まだ1頭だけでは行動できないため、まるで母親を離すまいと小さい手足でしっかりと抱きついている姿が、何ともほほえましい。
尻尾を除いて体長約20センチで生まれた赤ちゃんの性別は、雄。飼育員の万羽(まんば)貴史さん(31)によると、ずっと母親に抱きついているため、目で性別を確認することが難しかったが、最近になって正式に確認できたという。
名前は「おかき」。その由来は…。「母親の名前が『アラレ』なので、煎餅から連想して『おかき』にしました」
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ブラウンケナガクモザルは主に南米のコロンビアなど、赤道近くの熱帯雨林に生息する「クモザル」の一種。持ち前の長い尻尾を使って、器用に木にぶら下がることができる。
日本でブラウンケナガクモザルが展示されているのは、同園を含めて3園のみ。ここでは赤ちゃんを含めて17頭を展示中だ。「もともと一生のほとんどを木の上で過ごす動物で、木にぶら下がりやすいように体も特化したつくりになっている」という。
ブラウンケナガクモザルの担当になって今年で3年目。群れで行動するため、飼育には独特の難しさがあり、当初は戸惑ったこともあったという。「特に雄同士はケンカで負けると、群れにいられなくなってしまう。個体によって強い子とそうでない子がいるので、餌やりのときも不平等が生じないように気を配っています」
生まれてから独り立ちするまでには約2年。昨年生まれた別の赤ちゃんは、すでに元気に飼育場内を駆けまわっており、「おかき」と成長ぶりを比べてみるのも面白い。
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野生のブラウンケナガクモザルは、国際自然保護連合(IUCN)から「絶滅危惧種CR」に指定され、絶滅の可能性が非常に高いとされている。主な原因は生息地の破壊だ。木の上で生活するという特性上、森林が分断されると移動ができなくなり、餌の確保や繁殖に支障が及ぶ。また、成獣になるのに5~6年かかることから、数が大きく減ると回復までに時間がかかることも影響している。
これまでは、こうしたことを飼育員らが説明する機会もあったが、新型コロナウイルス禍で中断されてしまっている。同園では会員制交流サイト(SNS)を通じて情報発信に取り組んでおり、万羽さんは同様の取り組みができないか模索したいという。
「野生で数が減っていることなどを知ってもらうのが目標。まずはかわいい赤ちゃんを見てもらうことで、ブラウンケナガクモザルのことを知ってもらえれば」。その上で、動物たちが置かれている現実も伝えたい-。それが飼育員としての切実な思いだ。
(太田泰、写真も)