記者発

残したいキャリアメール文化 経済部・林修太郎

かつて新聞記者は会社からポケットベルを支給され、ピーと鳴ると慌てて公衆電話に駆け込んだ。ズボンには電話をかけるための小銭がじゃらじゃらとうなっていたという。この話を上司から聞いたとき、現在30代で「ガラケー」と呼ばれる携帯電話に囲まれて育った私としては、なかなか実感が湧かなかった。

携帯電話事業者が提供する「キャリアメール」について、携帯事業者を乗り換えた後もそのまま使えるよう政府は年内にも制度を改正する方針だ。キャリアメールは末尾に「docomo.ne.jp」などと付いているのが特徴だが、スマートフォンの普及で日々の連絡で活用する場面は急減。キャリアメールの持ち運びが携帯業界の競争環境をどれほど活性化させるかには疑問の声もあるようだ。

確かに、友人や家族間での気軽なやり取りの場はLINEなど会員制交流サイト(SNS)のメッセージ機能が取って代わった感がある。ビジネスで使うにしても、各種のフリーメールも存在する。とはいえ、総務省の調査ではキャリアメールを週1回以上利用する人は送信で37・1%、受信は67・7%だった。キャリアメールの持ち運びサービスを利用したい人は74・1%もいて、ニーズは根強い。

思えばアドレスには持つ人の人となりが出ていた。家族やペットの名前、記念日、好きなキャラクター、アーティストなどが多かった。イニシャルを組み合わせた無機質なものもあったが、それを含めて文字列から持ち主の趣味や人柄が推し量れた。赤外線で連絡先を交換した際に「このアドレスはどういう意味?」と話が弾むこともあった。

私もキャリアメールを手放したくない。今でもキャリアメールでやり取りする友人がいるし、ネット上のサービスでアドレスを登録している。初めて作ったアドレスも覚えている。ネット検索をしてみるとキャリアメールに懐かしさを覚える人は多そうだ。

若い世代ほどキャリアメールの利用率は低いという。ポケベル世代の感覚が私に伝わらなかったように、若年層にはガラケー世代のキャリアメールへの愛着は通じないかもしれない。それでもキャリアメール文化が廃れるのは惜しい。持ち運び制度を機に、たまには使ってみてほしい。

平成26年入社。千葉総局、東北総局を経て30年から東京本社経済部。日本銀行や財務省を担当し、現在は総務省を取材。