ザ・インタビュー

刹那の夢、リズミカルに 講談師・神田蘭さん 「女と男の恋する日本史講談」

「恋をして自分自身も愛した、生命力を感じさせる人たちに心ひかれます」と語る神田蘭さん(三尾郁恵撮影)
「恋をして自分自身も愛した、生命力を感じさせる人たちに心ひかれます」と語る神田蘭さん(三尾郁恵撮影)

世にあふれる歴史関連本の中でも、読みやすさはトップクラスだろう。日本史を彩ってきた女性たちの劇的な生涯を紹介する「歴史創作講談」だ。純愛から道ならぬ愛まで、彼女たちの愛の形はそれぞれ異なる。だが、ひとたび著者の軽快な講談調の〝語り口〟を通せば、情熱的で魅力的な人生が浮かび上がってくる。

「『講談師見てきたような噓をつき』というフレーズもありますが、この作品は事実を基にしたフィクションです。いかに面白く読めるかを大事にして、事実6割、思い込み3割、噓1割―の割合で書きました」

この言葉通り、男女の艶話やギャグなども交えており、堅苦しさとは無縁。知られざる逸話の数々に快い歯応えを覚えつつ、スラスラと読み進めてしまう。

紹介するのは、2人の天皇に愛されたといわれる飛鳥時代の歌人、額田王(ぬかたのおおきみ)ら13人。伊達政宗の正妻であり外交面から伊達家の発展に寄与した愛姫(めごひめ)など、知る人ぞ知る人物も紹介する。日本映画の黎明(れいめい)期に活躍し、すさまじい役者魂を見せた女優の田中絹代ら近現代の人物にも光を当てる。

番外編として仏デザイナーのココ・シャネルも入っているのは、「特に好きなのが田中絹代とシャネル。この2人はどうしても入れたかった」からだという。

彼女たちに共通するのは、女性が生きやすかったとはいえない時代に、自分の人生を生き抜いた点だ。

「人を愛し、人生を諦めずにしぶとく生きた人に心ひかれます。特に好きな言葉は、シャネルの<空を羽ばたく翼が無ければ、自分で翼を生やし羽ばたけばいい>。この本で書いたのは、自分で翼を生み出した人たちなんです」

神田蘭著『女と男の恋する日本史講義』(辰巳出版)
神田蘭著『女と男の恋する日本史講義』(辰巳出版)

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現在は講談師として活躍する著者だが、最初から古典芸能に興味があったわけではなかったという。転機は、女優やナレーターなどとして活動していた平成12年ごろ。たまたま行った寄席に心を強く動かされたと振り返る。

「落語を見て『すごいな』と思ったんです。芝居は一つの役を演じますが、落語や講談は一人で何役も務め、語りまでやる。『これを学んだら、引き出しが増える』と思ったんです」

16年、講談師の神田紅(くれない)さんに入門。講談の道を歩み始めた。30年には真打に昇進。長年にわたり創作講談を手掛けてきた。張扇で釈台をたたいて調子を取りつつ軍記物などを読み聞かせる講談の語り口と同様に、文章からも独特のリズムが伝わる。

「講談の魅力は日本語の美しさとリズムの良さ。ありがたいことに(文章を)読みやすいと言ってもらえるのですが、それは講談のリズムかもしれません」

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昔から日本史が好きで、ラジオ番組「恋する日本史」(JFN)ではパーソナリティーを務める。本書執筆のきっかけは、同番組を聞いた担当編集者から書籍化の声がかかったこと。今年4月、原稿用紙に手書きのスタイルで執筆を始めた。

「歴史は人間ドラマの塊のようなもの。今はコロナ禍で閉塞(へいそく)感のある時代ですが、この本を読み、一瞬でも『刹那の夢』を見ていただけたらうれしいですね」

その一方、本書には登場しない女性たちにも思いをはせる。美人画を得意とした日本画家で、女性初の文化勲章を受けた上村松園(しょうえん)。苦労の末、明治の世に日本初の公認女性医師となった荻野吟子(ぎんこ)…。「すごい人たちがまだまだたくさんいるんですよ」と語る。今後は「女はじめて物語」のようなものを書きたい、とも。

「先人たちが厚い〝壁〟をたたき割ってくれたおかげで、今の私たちはある。おこがましいですが、頑張ってくれた先人の方々にもっと光を当て、一人でも多くの現代の人に知ってもらえればいいな、と思います」

3つのQ

Q気になる歴史上の人物は?

新選組副長の土方(ひじかた)歳三。長いものに巻かれず、最期まで自身の『分』を知っていたと思う

Q最近、心動かされた作品は?

宇江佐真理さんの歴史小説が好きで、コロナ禍でほとんど読みました。諸田玲子さんの作品もよく読みます。つらくても最後に救いのある小説が好みです

Qコロナ禍の近況は?

ピラティス(体幹などを鍛えるエクササイズ)のインストラクターの資格を取りました。何事も体幹が大事です

かんだ・らん 埼玉県出身。女優やナレーターなどを経て、平成16年に講談師の神田紅さんに入門。20年、二ツ目昇進。30年、真打昇進。ラジオ番組「恋する日本史」(JFN)などに出演。著書に『恋する日本史講談』。