自転車専用の洗車店 世界で活躍したプロのメカニックの技光る

イタリアのレーシングチームでメカニックを担当していた福井響さん(提供写真)
イタリアのレーシングチームでメカニックを担当していた福井響さん(提供写真)

泡で優しく包み込んで、隅々までピカピカに-。大阪府豊中市にある、自転車専門の洗車店が評判になっている。世界を舞台に活躍した整備士が日本で初めて開いた専門店。コロナ禍でも、密を避けられる交通手段として期待される自転車の洗車を通じて、日本に真の自転車文化を根付かせようという狙いがある。

30分で新品同様の美しさに

自転車洗車専門店「LAVAGGIO(ラバッジョ)」は阪急宝塚線服部天神駅から徒歩約5分の場所にある。店を訪ねると、ちょうど数台の自転車の洗車中だった。

車輪を外してフレームだけにすると、油汚れを落とす専用溶剤の入ったスプレーを全体に吹きつける。水で予洗いをすると、車体についた汚れが落ちて、黒っぽい水になって流れる。次に泡状のスプレーをかけ、これもしっかりと洗い流し、その間に手際よくタイヤも洗浄。約30分もすれば新品のような輝きを取り戻した。最後はギア部分などに注油を施して完成だ。

「テッカテカすぎてワロタ」「ワックスも塗ってもらって自転車もご機嫌そう」。インターネット上では同店で自転車を洗ってもらった顧客らの声があがっている。

「月平均で250~300台を洗っています。ロードバイクがほとんどですが、普通の自転車も洗いますよ」と答えてくれたのは同店社長の福井響さん(28)だ。昨年5月、日本初の自転車洗車専門店としてオープンした。

「日本の自転車店といえば修理だけで洗車はまったくしていない。自転車に乗る人に対して潜在的な需要があると思った」と説明する。洗車中に自転車の不具合が見つかった際には客に自転車店での修理をすすめる。自転車店とも共存を目指している。

プロレーサーは試合毎に必ず洗車

「自転車を長持ちさせるには、定期的に洗車することが重要です」と福井さんは力説する。洗車のタイミングは通勤で使っている自転車なら月1回、週末に使用している場合は数カ月に1回、走行距離だと約400キロが目安になるという。

大阪府箕面市出身。鹿屋(かのや)体育大(鹿児島県鹿屋市)の自転車競技部で自転車の整備をするメカニックとして選手たちを支えてきた。

平成25年にはイタリアの自転車レースチームにスカウトされ、世界各地を転戦した。イタリア全土を舞台に行われる自転車ロードレース「ジロ・デ・イタリア」は、3週間にもわたる長丁場になるため、メカニックは非常に重要な役割を担う。試合前に洗車を行ってからメンテナンスを行うのが基本となっていた。

「ギアやチェーンなどに少しでも砂ぼこりが残っていれば、自転車の不具合が起きて最悪の場合は事故になる危険性もあります。選手たちが安全にレースができるだけでなく、ピカピカの自転車で選手のモチベーションアップにもつながる」

2年前にメカニックを引退し、「自転車の楽しさを伝えたい」と帰国。本場で学んできたノウハウを武器に、注目をしたのが出身地に近い大阪府豊中市だった。「国道176号沿いは大阪市内から箕面山へ向かう重要なサイクルロード。その中間点に位置する場所に店舗を構えることで、多くのサイクリストたちが集まる場所にしたかった」

マナー学んで安全に

国内では29年に自転車活用推進法が施行され、環境への負荷低減の目的や、災害時に交通機能を補うために自転車を活用することを定めている。

国も、都市部などで市民が自転車を共有するシェアサイクルの推進計画を策定、令和2年3月時点で全国164の都市がシェアサイクルを導入している。国土交通省の担当者は「観光目的での利用数は減っている一方で、日常での利用が増えている。新型コロナの影響でその需要、認知度はますます広がっていく」とみる。

だが、世界のロードレースの現場に立ち、自転車文化の本場、欧米をよく知る福井さんは「日本ではまだ自転車は単なる移動手段でしかない」と指摘。マナーの浸透や自転車を楽しむ文化の醸成が必要と考える。

大阪市内から箕面山へ向かうサイクルロードの途中に位置する自転車の洗車専門店「LAVAGGIO」=大阪府豊中市
大阪市内から箕面山へ向かうサイクルロードの途中に位置する自転車の洗車専門店「LAVAGGIO」=大阪府豊中市

例えば欧米では運転の際のヘルメット着用は当然で、安全のための関心も高いという。「こうしたマナーは子供のころから習慣づけていないと身につかない。海外では自転車業界の人たちが子供たちのサポートをしているので、こうしたマナーや自転車文化を日本でも根付かせたい」と、洗車専門店に込めた意気込みを語っている。

自転車活用推進法の施行を受け、大阪府内でも大阪市や堺市、豊中市、吹田市などが電動アシスト自転車を気軽に利用できるシェアサイクルサービスの実証実験を行っている。

令和元年11月から実証実験を実施している豊中市では電動自転車専用駐輪場のポートを市中南部で27カ所から54カ所に増やした。今年7月の月間利用回数は過去最多の約7千回に上り、前年同月比で2倍以上に。市都市政策課の担当者は「利用者の推移は順調に伸びている」と手応えを感じている。実験は来秋に終了する予定だが、「このまま本格的にシェアサイクルを導入していく」としている。

また、市は今年1月、「自転車活用推進政策」を策定。7年11月までにシェアサイクルの月間利用者数6800人、月間利用回数3万4千回を目標に掲げる。さらに自転車販売店「サイクルベースあさひ」を全国で展開する「あさひ」(大阪市都島区)とも連携協定を結び、市民の健康づくりや脱炭素社会に向けた取り組みを進める。(格清政典)