菅義偉首相は23日、米首都ワシントンで24日に開かれる日米とオーストラリア、インド4カ国(クアッド)首脳会合出席のため、政府専用機で羽田空港を出発した。退陣間際の外遊は異例だが、同盟国の米国はじめ各国との関係を重視した。派手なパフォーマンスよりも結果にこだわった菅外交の集大成となる。
首相は出発前、新型コロナウイルスワクチンなどの課題について4カ国で話し合い、「自由で開かれたインド太平洋の具体化の道を探っていく」と記者団に抱負を語った。
昨年9月の就任直後には、外務省幹部を前にこう宣言していた。
「外交に新しいキャッチフレーズはいらない。おれには『自由で開かれたインド太平洋』があるから、それをやる」
安倍晋三前首相が提唱した「インド太平洋」は共通の価値観を持つ国々と連携して覇権主義的行動を強める中国に対抗する狙いで、クアッドはその中核となる。
バイデン米大統領は就任前の昨年11月の首相との電話会談で「安全で繁栄したインド太平洋」と語るなど、当初は距離があった。ただ、首相はじめ日本側が働きかけた結果として構想を取り入れ、対面では初のクアッドの首脳会合を自国で主催する。
退陣間際の訪米には「卒業旅行」との批判もある。ただ、首相周辺は「首相に自分が行きたいとの思いはない。米国が戦略的にクアッドをこのタイミングでやる中、延期や中止で同盟国の日本が足を引っ張るわけにはいかなかった」と訪米の意義を語る。
10月には20カ国・地域(G20)首脳会議があり、米中首脳会談も想定される。バイデン政権はアフガニスタンの米軍撤収の混乱で威信が傷つき、反米勢力を勢いづかせかねない状況にある。そんな中、米側は東京電力福島第1原発事故を受けた日本産食品の輸入規制を撤廃した。撤廃は、首相が4月のバイデン氏との会談前、議題にするよう事務方に指示していた。外務省幹部は「首相への米側の思いの表れだ」と話す。
首相は外相の経験がなく、外交手腕は未知数だったが、携帯料金引き下げやデジタル庁創設などで結果を積み重ねたように、安倍氏の外交路線を継承する「実務家」として一定の成果は収めた。今回、この路線を次期首相に円滑に引き継ぐことが首相の最後の仕事になる。(田村龍彦)