いきもの語り

「終焉の姿伝えたい」ハキリアリの群れ崩壊展示

ハキリアリの展示では女王アリの死が説明されていた=13日午前、東京都日野市の同園(内田優作撮影)
ハキリアリの展示では女王アリの死が説明されていた=13日午前、東京都日野市の同園(内田優作撮影)

東京都日野市の多摩動物公園には、来園者がきまって足を止める展示がある。ガラスの向こうで生活するのは、ハキリアリという中南米を中心に生息するアリの群れ。群れは今年春ごろに女王アリを失って以来、活動が停滞し、崩壊を迎えつつある。巣を再現したケースの前の掲示には、こんな文字があった。

「終焉(しゅうえん)を迎える群れの行く末を、ぜひ観察してみてください」

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ハキリアリの名前は、食糧を確保するために葉を切り取るという動きに由来するが、エサにするのは葉そのものではない。切り取った葉をアリが分解し、そこにキノコの菌を植え付ける。1~2週間ほど育てると、キノコになる前の菌糸体と呼ばれる小さな塊ができ、それをエサとする。勤勉に葉を摘んで運び、食糧を作るという過程は人間の農業とも重なる。

平成26年から飼育されているこの群れでは、今年5月下旬に女王アリの死亡が確認された。女王アリを失うと、群れでは仕事の効率性が顕著に低下するという異変が起きた。働きアリの作業は「葉をかみ切る」「運ぶ」「不要な葉を捨てる」などの役割ごとに分担されているが、それぞれの現場でアリが減り始めたためだ。

飼育員の渡辺良平さんによると、働きアリたちの連携が崩れるにつれ、個々のアリもまたむだな動きが増え、役割がなくなってうろうろするばかりのアリもいる状態と化した。菌糸体を育てる畑は傷み、アリの死骸の処理も進んでいない。

一連の停滞は、指示を与えるリーダーがいなくなり、群れの統率が効かなくなったことが原因かと考えそうになるが、渡辺さんは「作業する働きアリは、女王アリの存在は気にしていない」と否定する。元来、働きアリは流れ作業で行動しており、周りにアリがいれば作業は自動的に進む。女王アリを失うこと自体は作業に影響を及ぼさないという。

渡辺さんは、若いアリがいなくなったことが停滞の要因と解説する。働きアリはすべてメスだが、メスを産めるのは女王アリだけ。女王アリが死ぬと、群れを維持するための子孫は絶えることになる。連携して仕事をしようにも、寿命が約半年の既存のアリは老い、労働力となる若いアリも入らない。現場をつなぐアリは日々姿を消して、労働の効率性は落ちていった。

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同園は14年からハキリアリを飼育し、現在の群れは展示されているものとしては5代目だ。これまでの群れも、女王アリが死んだことで労働力がなくなり、最後は崩壊を迎えた。渡辺さんは「小さいころから見てきた群れが衰退するのは悲しい。もう少し寿命を伸ばせないかなと思うが…」と話す。以前は群れの衰退を前面に打ち出してこなかったが、「アリの生態を見せるのなら、滅ぶところもしっかり伝えたかった」と今回の展示を行った。

衰える群れの姿は寂しくもある。ケースをつなぐ木に目を落とすと、この日も働きアリは自分の大きさほどもある葉を背負い、懸命に巣へ歩いていた。その先には処理する者がなく、葉がたまり放題になった廊下があった。(内田優作)