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特定少年の実名報道 18、19歳…色濃く残る「保護主義」 大阪社会部長・牧野克也

新聞は記事の正確性や真実性を確保し、国民の「知る権利」に奉仕する観点から、実名報道を原則としている。犯罪報道の容疑者が代表例だが、容疑者が20歳に満たない少年事件の場合、異なる対応をとる。

神戸市北区の路上で平成22年10月、私立高校2年、堤将太さん=当時(16)=が刺殺された事件は今年8月4日、発生から約11年を経て犯人の男が殺人容疑で逮捕された。事件当時17歳だった愛知県内のパート従業員。兵庫県警は「A男28歳」と発表、本紙を含む新聞などのメディアは「元少年」と報じた。

少年事件で氏名や顔写真など本人が特定される報道を禁じているのは、少年法61条だ。少年当時の罪で立件された成人も匿名対象となる。

未成熟な少年に対し、刑罰よりも教育による立ち直りを優先させる「保護主義」を基本理念とする少年法。61条も少年の名誉・プライバシーを保護し、更生を図る趣旨がある。表現の自由に配慮して罰則はないが、新聞では原則匿名ルールが定着している。だが、神戸の事件では結果の重大性、何よりも成人になって久しい年齢を考えると、違和感を覚えるのも事実だ。

一方、雑誌は凶悪犯罪ではときに実名報道に踏み切る。直近では6月、東京都立川市のホテルで風俗店従業員の男女2人が死傷した事件で、『週刊新潮』が逮捕された19歳少年の実名と顔写真を掲載した。

61条違反のいわば確信犯である。が、日本弁護士連合会が「社会復帰を阻害する」などと声高に批判しても、さほど共感は広がらない。インターネット上でも第三者が加害少年の実名や顔写真を暴く「ネット私刑」が横行している。

この風潮を軽々に肯定する気はない。ただ、重罪を犯した少年に対しては甘やかさず、罪の重さに見合った制裁を容認する国民感情を背景に、「凶悪犯を匿名で守る少年法は偽善だ」という見方が以前よりも増しているように感じる。

昭和23年、米国の法を模範に制定された現行少年法は、食糧難のため犯罪に走る少年や戦災孤児を保護する意味合いもあった。時代を経て少年事件は変質し、数こそ減ったが、ここ20年は特異な事件が起きるたびに厳罰化を求める世論を背に改正を重ねてきた。

例えば処遇面。16歳以上で故意に人を死なせた場合、家裁の少年審判で少年院送致などの保護処分―という通常の流れでなく、原則として検察官送致(逆送)して成人と同じ刑事裁判にかける。保護か刑罰かを分ける基準は犯罪の軽重だが、61条の実名報道禁止にはその峻別(しゅんべつ)がなかった。