「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(通称・グローバルファンド、GF)」の戦略・投資・効果局長を務める医師の國井修氏が、誰も置き去りにしない社会について会いたいゲストと対談する企画の9回目は、WHO(世界保健機関)で健康危機管理官を務めた阿部圭史氏を招いた。(下)ではこれから起きる危機に対して日本が備えておくべきこと、若い人に望むことなどについて意見を交わした。
国際連合だけでやる時代は終わり
國井 WHOについて、ここはもう少しがんばれるんじゃないか、将来に向けてこうした改善をしたら良いと思ったことはありましたか?
阿部 難しいですね。例えば、さまざまな調査の際に、WHOはなぜもっとしっかり調べないのか責められることがありますが、WHOは加盟国のために奉仕する機関であって、その加盟国から強い調査権限を与えられているわけではありません。事態対処行動を行う主体は主権国家である各国政府で、WHOはあくまで各国政府を応援支援する立場なんですね。もしもこれが問題だとすれば、WHOが果たすべき役割を今後、加盟各国の間で議論していく必要があると思います。
國井 WHOは知名度が高いし周りからの期待も大きいけれど、その割に予算も人も少ないですからね。そのアンバランスが、WHOの中の人にも外から見てるに人もフラストレーションをためるんじゃないでしょうか。WHOはもっと、基準・規範作りや調整に徹して周りのリソースをうまく使っていく必要があると思います。
私のいるGFや、開発途上国などに予防接種を供給する「GAVIアライアンス」(GAVI)、世界銀行といった国際機関にはそれぞれの強みがありますし、時にWHOよりも強い戦術を持ち、現場でのオペレーションもできますから、WHOはそれらの相乗効果を高めるために調整役になったり、指南役になったりしてほしいですね。
阿部 今やWHOだけ、いわゆる国際連合だけでやる時代は終わっていて、GFやGAVIといったいろいろな機関とパートナーシップを組んで世界を動かす時代です。さらに、政府機関だけ、公的資金だけで危機管理活動をする時代も終わっているんです。公的資金は税金が原資なので限界がある。民間資金をいかに活用しながら危機管理活動をするかを考えていくことが非常に重要です。
國井 今回は世銀がエボラ熱流行の時に作ったパンデミック債やWHOの緊急ファンドがあまりうまく機能しなかったといわれていますが、今後のパンデミックの備えとして、資金のプールや民間からの資金調達などを考えないといけないですね。
日頃の「提携」が物を言う
國井 最後に、新型コロナのような危機管理を強化するには、WHOやCDC、さらに世界の危機の現場に若い人を送り出し、経験を積ませないといけないと思います。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長の次につながる人材を中堅、若年クラスで作っておく必要がある。若い人にどんどん海外に出ていってもらい、彼らと提携を組んだり、ネットワークを作ったりしておかないと、いざというときに役に立たないですよね。