主張

中国のTPP申請 交渉できる状況にはない

中国が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加盟を正式に申請した。TPPへの新たな加盟申請は2月の英国に続く2カ国目である。

本来ならば、新規加盟が相次ぎ、TPP経済圏が広がることには意義がある。しかし、中国を英国などと同列に論じるわけにはいかない。

TPPが実現させた貿易・投資の高度な自由化は、習近平政権下で一段と強まった経済の国家統制とは対極に位置する。しかも中国にはこれを改める気配もない。

中国には、米国のTPP離脱を好機と捉えアジア太平洋地域での存在感を高めようとする狙いもあろう。それが覇権の追求を後押しすることを、中国による安全保障上の脅威に直面する日本は特に認識しておく必要がある。

いずれにおいても、中国の加盟を認めるべきでないのは当然である。それ以前に、交渉すること自体にも慎重であるべきだ。交渉の事実をもって、中国の変化の証左とみなす誤ったメッセージを発しかねないからである。

中国をTPPに引き込めば不公正な貿易慣行などの改善を促せるとみるのは楽観にすぎる。TPPの前に世界貿易機関(WTO)ルールの順守状況や、日中韓など15カ国で署名した「地域的な包括的経済連携(RCEP)」の履行状況を確認するのが先決だろう。

中国と交渉できる状況にないことは、個別項目をみても自明である。TPPには、国有企業の規律やデジタル分野などに中国にとって受け入れがたい規定がある。労働者の権利保護もうたわれているが、中国は新疆ウイグル自治区の強制労働問題などで納得のいく説明ができるのか。

TPPの新規加盟には参加国の同意がいる。この中にはコロナ禍で対中関係が悪化し、中国から高関税を課される事実上の報復措置を受けたオーストラリアのような国もあり、すんなりと加盟が認められるとは考えにくい。

忘れてはならないのが、中国と同様にTPP加盟に意欲をみせる台湾の存在だ。中国は台湾の参加に断固反対の姿勢であり、中国が先に加盟すれば、台湾加盟への道が閉ざされる恐れがある。

日本は今年のTPP議長国である。加盟国が中国の経済力にすり寄って問題点をうやむやにしないよう議論を主導する。それが日本の果たすべき責務である。