勇者の物語

エース満身創痍 降板・山田に広島スタンドからも拍手 虎番疾風録番外編314

マウンドでヒザの痛みに耐える山田=広島球場
マウンドでヒザの痛みに耐える山田=広島球場

■勇者の物語(313)

いま思えば、第7戦の山田先発は無茶だったのかもしれない。

10月22日、広島球場のマウンドに上がった山田のヒザはすでに限界に達していた。シーズン中に亀裂骨折した右ヒザではない。右足をかばっている間に左足に負担がかかっていた。そして第4戦で内野からの高い返球をジャンプして取ろうとした際、左ヒザを痛めてしまったのだ。もちろん、そんなそぶりは一切見せずに山田はマウンドに上がった。

「みんながボクをもう一度投げさせようと頑張ってくれた。その気持ちに応えたいし…」

なんと、熱い男たちなのだろう。

◇最終戦 10月22日 広島球場

阪急 100 001 000=2

広島 001 001 32×=7

(勝)山根1勝 〔敗〕山田3敗

(本)弓岡①(山根)衣笠③(山田)長嶋③(山田)

山田は歯を食いしばって投げた。「五回までのつもりが七回まで頑張れた」。だが、もう投げられなかった。七回、先頭の山根に中前安打を許すと自らベンチへ「交代」のサインを送った。

緊張した顔の今井にボールを託す。そのとき、広島球場に〝異変〟が起こった。赤ヘル一色のスタンドから降板する山田へ歓声と大きな拍手が起こったのである。広島のファンも足を引きずりながら懸命に投げるエースの姿に心打たれていた。

「まさか、あんなところで拍手がもらえるとは思ってもみなかったから、少しうれしかった」。山田は帽子を取って、手を振ってマウンドを降りた。

試合は山田に後を任された今井が極度の緊張。高橋慶、山崎隆、長内らに打ち込まれて万事休す。広島が4年ぶり3度目の「日本一」に輝いた。

「みんなよくやってくれた。きょう負けたからといって小さくなることはない。ミスもあったが、若い選手にはいい経験になったと思う」。上田監督は勇者の〝将来〟に希望を託した。

実はこのとき筆者は広島球場にはいなかった。トラ番5年目で4度目の「監督騒動」が起こり、連日、大阪の街を奔走。そしてこの10月22日、第23代、阪神監督にOBの村山実が指名、発表される予定だったのである。(敬称略)

■勇者の物語(315)

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