日本の未来を考える

復権する産業政策 学習院大教授・伊藤元重 

バイデン米大統領 (AP)
バイデン米大統領 (AP)

新型コロナウイルス禍から主要国の経済は順調な回復を実現するのだろうか。IMF(国際通貨基金)による経済予測をみると、主要国は昨年の大きな落ち込みを回復するような成長を実現し、来年もかなり高い成長を続けるようだ。日本の回復は遅れているが、ワクチン普及によって感染が収まってくれば、それなりの回復が期待できる。

問題はこれが単なるリバウンドで終わらず、リカバリーに繫(つな)がるかどうかだ。コロナ禍で消費が無理矢理に抑えられて景気が失速したので、感染の影響が収まればそれなりの回復は当然だろう。ボールが地面に強く打ち付けられれば跳ね返りも強い。これがリバウンドである。ただ、リバウンドが強くても、持続的な経済回復つまりリカバリーに繫がるとはかぎらない。コロナ禍の前、日本を含む主要先進国は長期停滞といわれる状況にあった。低金利・低成長・低インフレが象徴的であるが、経済の体温が非常に低い状況で、そこにコロナという危機が突然やってきた。仮にコロナ禍の影響が弱まったとしても、元の長期停滞に戻ってしまうようではリカバリーなど望めない。

米欧はこの点を強く意識している。バイデン米政権はデジタルやグリーンの分野などで大規模な財政支出を行い、それによって民間部門の大規模な投資を引き出そうとしている。欧州でも再生可能エネルギーや自動車の電気化への投資がポストコロナの経済成長に繫がると考えている。米欧の動きは、中国製造2025を掲げて主要産業で世界をリードしようとしている中国を強く意識したものである。つまり米欧中すべてで、それぞれ形は少しずつ違うが、産業政策が前面に出てきた。

政府が産業を育てるために政策的に介入するのを産業政策と呼ぶとすれば、近年、どちらかと言えば産業政策は時代遅れと考えられてきた。政府の介入をできるだけ小さくして市場メカニズムに任せればよいという考え方が主流だったからだ。だが、ポストコロナの世界では産業政策の復権が目立つのだ。

長期停滞の背景には、企業の投資が低調で、生産性の伸びが低いことがあった。つまり供給サイドに大きな問題があったのだが、そうした状況では需要サイドで財政や金融を刺激しても限界がある。政府による供給サイドへの刺激という意味で産業政策が必要だという議論が出てくるのは当然だった。

では、日本でこのような政策は可能なのか。厳しい財政状況でどこまで政策的な支出が可能か分からないが、これまでの財政支出の配分の問題点が問われていることは明らかだ。近年は社会保障の配分のみが増え、研究・教育・産業振興・社会資本整備など日本の産業競争力を強くするような分野への配分は細るばかりである。これでは日本経済の供給サイドは劣化する。産業政策の重要性が問われるとなると、財政支出の配分見直し論議は不可欠だ。社会保障の支出を削るのが難しいなら増税で歳入を増やすしかない。歳入面も含む財政支出の見直しが必要である。 (いとう もとしげ)