踏切で立ち往生のシニアカー、衝突までの35秒

踏切事故の現場点検ではシニアカーで実際に踏切を横断した=9月6日、香川県観音寺市
踏切事故の現場点検ではシニアカーで実際に踏切を横断した=9月6日、香川県観音寺市

香川県観音寺市で8月下旬、シニアカー(ハンドル形電動車いす)に乗っていた女性(75)が踏切を横断中、特急列車にはねられ、死亡する事故が発生した。運転免許がなくても乗れるシニアカーは高齢者の生活の足として普及している。事故はなぜ起きたのか。後日、県や県警、観音寺市、JR四国、電動車いす安全普及協会の担当者ら関係者が集まり、現場点検が行われた。

踏切事故の現場点検で踏切内の距離を計測する警察官。背後に非常ボタンがある
踏切事故の現場点検で踏切内の距離を計測する警察官。背後に非常ボタンがある

踏切で立ち往生

事故は8月26日午前6時49分ごろに発生。観音寺市大野原町花稲のJR予讃線の踏切で、シニアカーに乗っていた女性が、高松発松山行きの特急列車「いしづち103号」にはねられ、死亡した。県警で事故原因を調べている。

女性が乗っていたのはハンドルで操作する四輪のシニアカー。現場は見通しのよい踏切で、女性は踏切の東側から、自宅のある西側に向けて進んでいた。シニアカーは大破してバラバラになったという。

亡くなった女性は夫と2人暮らし。県警によると、寝たきりや車いす生活ではなく、歩いて日常生活を送っていたという。早朝の散歩が日課だった。

事故に遭ったシニアカー。衝突の衝撃の大きさを物語る=9月6日、香川県観音寺市
事故に遭ったシニアカー。衝突の衝撃の大きさを物語る=9月6日、香川県観音寺市

衝突まで35秒ぐらいか

現場は観音寺-豊浜駅間の単線の踏切で道路幅は5・5メートル、遮断機の間は約6メートルだった。警報機があり、両方の遮断機には「とじこめられたら車で押して出て下さい!」という看板がつけられていた。

警報機と遮断機は正常に作動していたとみられる。非常ボタンは遮断機の支柱近くに2カ所あったが、押された形跡は確認できなかった。

JR四国によると、踏切は観音寺駅を出て緩やかなカーブの後の約1キロのほぼ直線区間の途中にあり、運転士が女性を確認したときは時速130キロだった。運転士は「警笛を鳴らし非常ブレーキを作動させたが間に合わなかった」と話しているという。

踏切はどこでも警報開始から約30~35秒で列車が到達する設定。遮断機は内側から前に押すと上にあがる仕組みになっているという=9月6日、香川県観音寺市
踏切はどこでも警報開始から約30~35秒で列車が到達する設定。遮断機は内側から前に押すと上にあがる仕組みになっているという=9月6日、香川県観音寺市

事故のあった踏切では警報機が鳴り始めてから遮断機が下り始めるまで8秒間、下り切るまでに6秒間、遮断機が下り切ってから列車到達まで15秒(最長20秒)だったという。

特急列車は非常ブレーキを作動させていたことから、警報機が鳴ってから衝突までは35秒ぐらいだったとみられるという。

広報担当者は「踏切内で閉じ込められたら自身だけでも踏切の外に出る。命を守ることを第一に考えて」と話していた。

踏切回避を推奨

現場点検には関係機関のほか、シニアカーのメーカー関係者も加わった。担当者が実際に自社の試乗車を運転してみたところ、線路を10秒足らずで渡りきった。

だが、電動車いす安全協会協会は踏切横断を回避することを推奨しているという。協会発行の「安全利用の手引き」によると、「踏切の横断はなるべく避ける」と明記している。

協会の担当者は「通路をはみ出して脱輪したり線路の溝に車輪が挟まったりする可能性もあり、踏切は電動車いすにとって危険な場所。途中で遮断機が下りてきたら渡り切れない場合もある」と指摘。

事故があった踏切を通過する電車。長めの直線区間で時速はゆうに100キロを超える=9月6日、香川県観音寺市
事故があった踏切を通過する電車。長めの直線区間で時速はゆうに100キロを超える=9月6日、香川県観音寺市

そのうえで「やむを得ず渡る場合は介助者が同行し、あまり端を通らず、ハンドルをしっかり握って線路に対して直角に渡るよう指導している」と話していた。

地元企業ではシニアカーの販売にあたっては、担当者が購入希望者の元を訪れて試乗してもらい、自宅周辺に踏切がある場合には現場で指導をするなどして、注意喚起しているという。

協会によると、会員企業はメーカー11社。出荷台数は平成12年度の3万5717台をピークに減少傾向にあったが28年度ごろから再び増加傾向に転じ、令和2年度は2万4186台で、5年間で約5千台増。ハンドル形四輪車が7割を占める。

近年では高齢者の運転免許返納の動きが広がっており、免許を返納し、シニアカーを利用するという人も増えているという。

シニアカーの法定速度は時速6キロ。販売会社の担当者の運転では、現場の踏切を10秒足らずで渡り切った。
シニアカーの法定速度は時速6キロ。販売会社の担当者の運転では、現場の踏切を10秒足らずで渡り切った。

独立行政法人「製品評価技術基盤機構(NITE)」によると、踏切内の事故は昨年度までの10年間で兵庫や福岡などで13件。60歳代から90歳代の9人が死亡している。事故原因は、バッテリー切れによる急停止や脱輪などだった。

現場点検では、線路部分のコンクリート板のがたつきや隙間のへこみなどは補修基準に達していないと確認。路面表示の薄れの解消、外側線の引き直しなどの改善項目を確認した。

県警では老人クラブなどと連携した安全講習会の開催を検討しているという。

県警の担当者は「いつもの道、いつもの乗り方、慣れからくる油断が危険。改めて正しい乗り方を広めていきたい」と話していた。(和田基宏)