記者発

「魂の殺人」性被害者を救うため 大津支局・清水更沙

子供向けの性暴力被害者支援啓発カードを持つ、SATOCOの専門相談員、松井敏美さん(左)と松村裕美さん
子供向けの性暴力被害者支援啓発カードを持つ、SATOCOの専門相談員、松井敏美さん(左)と松村裕美さん

「思い出したくないのに、忘れることができない」「生きる気力が湧かない」―。いずれも〝魂の殺人〟ともいわれる性暴力被害に遭った人たちの言葉だ。癒えることのない苦しみを抱え、泣き寝入りを強いられる被害者たちの悲痛な叫びが胸に迫る。

性暴力被害者の支援のため全国で設置が進められている「ワンストップ支援センター」には連日のように相談の電話やメールが届く。滋賀県の「性暴力被害者総合ケアワンストップびわ湖(SATOCO)」もその一つ。滋賀県警や県産科婦人科医会、公益社団法人「おうみ犯罪被害者支援センター(OVSC)」などが協定を結んで運営しており、昨年は約千件の性暴力被害の対応に当たったという。

性暴力は被害者の尊厳を踏みにじる卑劣な行為で、一刻も早い被害者の心身のケアが求められる。こうした人たちに支援の手を差し伸べようと平成26年に開設されたSATOCOは、専門の講習を受けた看護師らが24時間体制で相談に対応している。被害後の急性期医療のほか、OVSCの支援員が警察署へ付き添ったり、弁護士を探したりと長期的なフォローを行っており、担当者は「この活動が必要な人にもっと届いてほしい」と利用を呼び掛ける。

ただ、相談件数は増加傾向にあるものの、被害が明るみに出ているのは一部分だけという。「相談すること自体が相当勇気がいる行為。顕在化されていない性暴力がまだたくさんある」(担当者)。当事者にとって、つらい経験を他人に打ち明けることはハードルが高く、自身を責める人も多いという。

令和2年度の内閣府の調査では、異性から無理やり性交された女性のうち、約6割がどこにも相談できていないことが分かった。しかも、警察に相談した人は1割にも満たない。実際に起きている性暴力の件数と警察が事件として認知する件数は大きく乖離(かいり)していることが考えられる。

社会から孤立しがちな被害者が声を上げることができる環境を整えるには、こうした支援のさらなる広がりを期待する。ただ、それだけでは性被害をなくす根本的な解決とはならない。今一度被害に遭った人たちへの理解を深め、社会全体で性暴力を許さないという強い意識を高めたい。

【プロフィル】清水更沙

平成30年入社。大津支局で警察や司法、大津市などの行政を担当。クラシック音楽やバレエなどの芸術分野も取材している。