拙速の「前科」
一貫して核燃料サイクルの抜本的な見直しを唱える河野氏は、その根拠として高速増殖炉「もんじゅ」計画の頓挫や、プルトニウムの安定的な消費が見込めないことなどを挙げる。
確かに、それぞれ一定の説得力を持つ。しかし歴史的経緯や、そこで関係者が積み重ねた議論を飛び越えて結論を得ようとすれば混乱を招きかねない。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で「最低でも県外、目指すは国外」をスローガンに掲げた民主党政権下での迷走は、その象徴と言える。
河野氏は核燃料サイクルの「手じまい」について、地元への説明などを含め拙速に進めない考えを示す。しかし自民党関係者は河野氏が安倍晋三政権で防衛相を務めていた令和2年、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画停止をめぐり、党への根回しを欠き、批判を呼んだことを念頭に「河野氏には〝前科〟がある」と声をひそめる。
大手電力各社による地域独占と総括原価方式に支えられた電気事業は、自由化によって過去のものとなった。国策民営で進められていた原子力発電のあり方についても、見直しが必要なことは論をまたない。その意味で、河野氏の提言には意味がある。
しかし日本国民を塗炭の苦しみに追い込んだ先の大戦に至った原因の1つに、資源やエネルギーの問題があったように、道を誤れば国益を損ないかねない。
高市早苗前総務相も原子力の平和利用は必要だと位置づけ、新技術の開発強化を打ち出す。告示直前の立候補表明となった野田聖子幹事長代行も含め、立候補した4氏には、国家百年の計であるエネルギー政策について骨太の議論を戦わせ、国政を担うに足る責任ある将来像を示すことが求められている。(中村雅和)