「投げ銭」経済の明暗 広がるクリエイターエコノミー - 産経ニュース

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「投げ銭」経済の明暗 広がるクリエイターエコノミー

メディアプラットフォーム「note」を舞台に、作家活動をしている岸田奈美さん
メディアプラットフォーム「note」を舞台に、作家活動をしている岸田奈美さん

動画配信や文章の執筆、ハンドメイド作品の出品など、インターネットを舞台にした創作活動によって収入を得る人が増えている。こうした経済活動は「クリエイターエコノミー」と呼ばれ、関連企業が今夏、業界団体「クリエイターエコノミー協会」を発足させたことでも話題となった。発展が見込まれる一方、ネットでの誹謗(ひぼう)中傷への対処など、個人主体だからこそ直面する課題も多く、新たな商取引の普及に向けた試行錯誤が始まっている。

「無料で公開した記事なのに、読者から、勤めていたときのひと月分のお給料を超える『投げ銭』をもらってびっくりしました」

文章や動画、音声などを投稿できるメディアプラットフォーム「note」(ノート)で、執筆活動を行う作家の岸田奈美さんは会社員だった2年前、ノートにつづったダウン症の弟との日々を描いたエッセーが反響を呼び、多くの読者から、「投げ銭」と呼ばれる応援の気持ちを示す寄付を寄せられたことがある。

「頂いたお金には、これからも面白い文章を届けてくれるはずだという期待が込められていると感じて、うれしかった」と振り返る岸田さん。

会社員から作家に転身してからは、ノートで有料記事を配信するなどして生計を立てている。

世界的な潮流

クリエイターの活動は、岸田さんのような執筆活動に留まらない。映像や音楽の制作、洋服やアクセサリーなど手作りした物品の販売、知見を紹介する講義など形態はさまざまだ。

こうした創造活動を行うクリエイターが、ネット上で多くの消費者(ユーザー)と出会い、つながりを持てるのが「プラットフォーム」と呼ばれる〝舞台〟だ。そこでクリエイターがユーザーから対価を得られる決済システムを提供したり、クリエイターのマネジメント業務やさまざまな事務手続きを支援したりするサポート企業が近年増えている。

情報社会のビジネスに詳しい国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授によると、1990年代末期にブログサービス、2000年代半ばにはユーチューブが登場し、誰もがコンテンツを発信できるようになったが、「当時は広告で収入を得るモデルしかなく、クリエイターが十分な収益をあげることは難しかった」という。

だが、この10年でコンテンツへの課金やクラウドファンディングなど、クリエイターの収益構造が多様化してきた。

「だれもが自由にコンテンツを発信できるようになったおかげで、消費者も、自分好みのものをより選びやすくなった。自分の好きなコンテンツを発信してくれるクリエイターを応援したいという、ファン心理をかなえるシステムとして『投げ銭』などの課金の仕組みが整ってきたことが、クリエイターエコノミーが活性化する大きな転換点となったといえる」

クリエイターエコノミーは世界的な潮流といい、山口准教授は「今後も伸び続けるのではないか」と話す。

課題解決に協会発足

日本では8月、ノート社に加え、ユーチューバーのマネジメント会社「UUUM」、電子商取引(EC)プラットフォーム「BASE」の3社が代表理事を務める「クリエイターエコノミー協会」が発足した。

新興企業を中心に30社以上が正会員として参加し、クリエイターが活動しやすい社会環境の整備を目指すという。

ノート社CEOの加藤貞顕氏は「消費者が生産者にも販売者にもなるという、双方向の経済活動はこれまで想定されておらず、課題への対処や、新たな商取引のルールが必要になっている」と説明する。

実際、同協会発足に先立ち、代表理事3社が6月に2426人のクリエイターに実施したアンケートによると、「SNSや各種プラットフォームの運用知識」「トラブル予防や自分の作品を守るための法律や権利の知識」「誹謗中傷を受けたときの対応」などについて、多くのクリエイターが課題を感じていることが浮き彫りとなった。

加藤氏は「表現活動をする上で、悪意がなくても、批判の的になるような事態はよくある。企業であれば法務部門が対応してくれるが、個人は自分でやらないといけない。著作権に関する勉強会を開催するなど、協会全体で情報やノウハウを共有し、クリエイター保護につながるガイドライン作りや啓発活動を行っていきたい」と話している。